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トマトの主な害虫と被害症状 ─ 世界的な総覧 ​

トマトの害虫被害の全体像 ​

トマトは世界中で広く栽培されており、多種多様な害虫による被害を受けやすい作物です。これらの害虫は、葉・茎や果実などさまざまな部位に被害をもたらし、品質や収量の低下、場合によっては壊滅的な損失を引き起こします。地域・栽培環境を問わず認識されている代表的なトマト害虫と、その特徴的な被害症状を以下に詳述します。また、特定地域や環境で問題となる害虫についても適宜補足します。

葉や茎、果実に大きな影響を及ぼす主要害虫 ​

トマトリーフマイナー（トマト葉巻き虫） Phthorimaea absoluta（トマトハモグリガ） ​

  • 被害内容：幼虫が葉、芽、花、果実の内部を食害し、葉には蛇行状の食害跡や褐変が発生。果実はえぐられ商品価値を大きく損なう。未防除下では80%以上の減収も報告。
  • 分布・特徴：南米原産だが、現在はヨーロッパ、アジア、アフリカ、中南米など世界各地に拡大中。温暖地域で深刻[1][2][3][4][5][6].

オオタバコガ・トマトホーンワーム Manduca sexta / Manduca quinquemaculata ​

  • 被害内容：大型の幼虫が葉を集中的に食害（はげ山状になるほど）。果実表面に浅い傷を付けることも。食欲旺盛で短期間に壊滅的被害をもたらす。
  • 分布・特徴：アメリカ大陸に多いが、日本やアジアでも認知。露地・温室双方で発生[6][7][8][9][10].

カットワーム/ヨトウムシ類 Spodoptera spp. ​

  • 被害内容：苗や若い茎を土際で切断（苗倒れ）、葉や小果の食害。新植や幼苗期に特に被害が深刻。
  • 分布・特徴：温帯〜熱帯の広範な地域に分布[6][11].

トマトピンワーム Keiferia lycopersicella ​

  • 被害内容：幼虫が葉を巻いたりつづったりして食害し、果実内部へも穿入。食害部が白く変色し枯死。
  • 分布・特徴：北米・アジアなどの温暖地域、主に温室にて深刻[11].

葉の栄養吸収を阻害し、ウイルスも媒介する吸汁害虫 ​

アブラムシ類（ワタアブラムシ、モモアカアブラムシ等）Aphis gossypii, Macrosiphum euphorbiae, Myzus persicae ​

  • 被害内容：葉や茎に群生し吸汁することで葉の縮れ・黄化、排泄物（甘露）ですす病発生も。複数のウイルスを媒介。
  • 分布・特徴：全世界で発生、露地・温室問わず要注意[7][8][9][10][11].

コナジラミ類 Bemisia tabaci, Trialeurodes vaporariorum（タバココナジラミほか） ​

  • 被害内容：葉裏に寄生し吸汁、黄化・落葉・生育不良を引き起こす。ウイルス病（トマト黄化巻葉ウイルス等）の主要媒介害虫。
  • 分布・特徴：温室や暖地の露地で極めて重要。日本・アジアや地中海地域等で警戒[7][8][11].

ハモグリバエ類 Liriomyza spp.（トマトハモグリバエ） ​

  • 被害内容：幼虫が葉内部に白色の蛇行状食痕を作る。光合成能力の低下や病原菌侵入の契機となる。
  • 分布・特徴：世界的に広がり、温室栽培でも重大[7][11].

サビダニ Aculops lycopersici（トマトサビダニ） ​

  • 被害内容：茎、葉表面が褐色にさびたようになり、落葉や樹勢低下。重症で枯死も。
  • 分布・特徴：温室や乾燥した暖地で多発、日本でも重要害虫[7][8][9].

アザミウマ類 Frankliniella occidentalis, Thrips tabaci（ヒラズハナアザミウマ等） ​

  • 被害内容：柔らかい新芽や花を吸汁し、葉・花の変形、果実の表面に傷。トマト斑点萎縮ウイルス（TSWV）などの重要な媒介者。
  • 分布・特徴：世界的に分布、日本でも花トマトで大発生例[8][10][11].

ハダニ類 Tetranychus urticae（ナミハダニ等） ​

  • 被害内容：葉の吸汁で黄化・点状の退色、ひどくなると葉が褐色化して落葉。蜘蛛の糸のような糸を張る。
  • 分布・特徴：乾燥・高温条件や温室内で被害大[7][8][9][11].

地域・条件特有の害虫やその他有力害虫 ​

コロラドハムシ Leptinotarsa decemlineata ​

  • 被害内容：幼虫・成虫の集団により葉を丸坊主に。生育不良・減収の要因に。
  • 分布・特徴：北米原産、現在ではヨーロッパやアジア北部にも拡大[11].

ノミハムシ類 Epitrix spp. ​

  • 被害内容：小さな円形の穴を葉に無数に開ける（ショットホール症状）。幼苗の生育阻害や立枯れも誘発。
  • 分布・特徴：温帯〜亜熱帯の露地栽培で頻発[8][11].

カメムシ類（Stink bugs, Pentatomidae） ​

  • 被害内容：果実への刺し傷→果皮の白濁・変形・果肉障害。商品価値低下。
  • 分布・特徴：多くの地域で発生、露地栽培に顕著[7][11].

ワイヤーワーム（コガネムシ類幼虫） ​

  • 被害内容：地中で根や地下茎を食害、苗立枯れや萎凋、株の枯死を引き起こす。
  • 分布・特徴：世界的、主に露地及び土壌由来の被害[7][8].

トマトサイリッド Bactericera cockerelli ​

  • 被害内容：吸汁により「サイリッドイエロー」と呼ばれる葉の黄変・巻き上がり、伸長不良、奇形果を誘発。疑似菌病症状も。
  • 分布・特徴：北米、中南米やニュージーランドで問題。アジアなど一部拡大例あり[11].

マメハモグリバエ、ジャガイモシロシタバ等（地域限定） ​

  • 一部、アジア・アフリカ等の熱帯〜亜熱帯では、これらの害虫の被害が重視される[6][7][9][10].

地域・環境別発生傾向まとめ ​

  • 温室栽培：コナジラミ、サビダニ、ハモグリバエ、アブラムシ類、アザミウマ類の発生が顕著[7][8][9][10][11]。
  • 露地栽培・温帯地域：ヨトウムシ、ノミハムシ、オオタバコガ、コロラドハムシなど。
  • 熱帯・亜熱帯地域：ピンワームやフィルドマイナーなどの内部食害型/新興害虫が深刻。
  • 世界的流通・気候変動の影響で、多くの主要害虫が地域を選ばず発生リスク有り。

参考文献 ​

[1] Phthorimaea absoluta (tomato leafminer) - CABI Digital Library: https://www.cabidigitallibrary.org/doi/full/10.1079/cabicompendium.49260
[2] Management of some common insect pests and diseases of tomato (Solanum lycopersicon L), Global Science Research Journals: https://www.globalscienceresearchjournals.org/articles/management-of-some-common-insect-pests-and-diseases-of-tomato-solanum-lycopersicon-l-89872.html
[3] YOLO for early detection and management of Tuta absoluta, PMC: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12130032/
[4] Phthorimaea absoluta CAPS datasheet (Purdue University): https://caps.ceris.purdue.edu/wp-content/uploads/2025/07/Phthorimaea-absoluta-CAPS-datasheet-20250328.pdf
[5] 施設ミニトマト有機JAS認証圃場における主要害虫の10年 (日本): https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010936488.pdf
[6] トマトを好む害獣・害虫とは？（日本）: https://hw-control.or.jp/guide/16557
[7] 平成17年病害虫の発生と防除（日本）: https://www.jppa.or.jp/archive/pdf/60_01_03.pdf
[8] 施設ミニトマト有機JAS認証圃場における主要害虫の10年間, J-STAGE: https://www.jstage.jst.go.jp/article/naroj/2020/5/2020_31/_pdf/-char/ja
[9] ヒラズハナアザミウマの発生生態と防除について（日本）: https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010622152.pdf
[10] Insect Pests of Tomato - University of Maryland Extension: https://extension.umd.edu/sites/extension.umd.edu/files/2021-03/Insect Pests of Tomato.pdf
[11] Pests of Tomato | NC State Extension Publications: https://content.ces.ncsu.edu/insect-and-related-pests-of-vegetables/pests-of-tomato

トマト栽培においては、これら害虫の発生生態や被害サインを的確に把握し、適切な防除策（物理的・生物的・化学的多様な方法）を状況に応じて組み合わせることが、安定した生産と品質維持のために極めて重要です。