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トマトの成長ステージ別NPK(窒素・リン・カリウム)吸収量(g/m²)に関する総合レポート
概要
本報告では、トマトの各成長ステージ(①発芽・苗期、②栄養成長期、③開花・結実(生殖期)、④果実肥大・成熟期)ごとのNPK(窒素・リン・カリウム)吸収量(g/m²)について、日本および国際的な科学文献・行政指針・農業普及資料をもとに、最新かつ総合的な知見と必要な推定値を提示する。直接的な吸収量データがない場合は、収量や日数に基づいた論理的な推定方法を明示し、その根拠や前提も明らかにする。
1. トマトの全期間におけるNPK総吸収量の基本
トマト1トンあたりの吸収量は、概ね以下である。
- 窒素(N):2 kg
- リン(P2O5):0.6 kg
- カリウム(K2O):4 kg
日本の施設栽培や露地栽培の平均的な収量は6~10 kg/m²(60~100 t/ha)であり、これをもとに換算すると、トマトの生育期間全体のNPK総吸収量は下記のとおりとなる[1][2][3][4]。
- 窒素(N):12~20 g/m²
- リン(P2O5換算):3.6~6 g/m²
- カリウム(K2O換算):24~40 g/m²
日本の農業普及資料・論文および海外の主要施肥指針の数値もおおむね一致している。
2. 成長ステージごとのNPK吸収パターン
トマトのNPK吸収は成長ステージごとに大きく変動する。以下に、各ステージの特徴と吸収量配分、ステージごとの比率をまとめる。
2.1 発芽・苗期(Germination/Seedling)
- 期間:種まき~本葉展開/定植まで
- 吸収総量の目安:全体の5~10%未満
- 理由:この段階は植物体が小さく、組織形成に必要な養分吸収もごく僅か。過剰施肥は根傷み等のリスクも。
- 目安値(10 kg/m²収量モデルの場合)
- N:1~2 g/m²
- P:0.3~0.6 g/m²
- K:2~4 g/m²
2.2 栄養成長期(Vegetative)
- 期間:定植~初花・蕾形成まで
- 吸収総量の目安:全体の20~30%
- 理由:茎・葉および根系の伸長が活発化し、光合成能力や生殖成長への基盤を築く。根張りの進展とともにN・K吸収も加速。
- 目安値
- N:3~6 g/m²
- P:1~1.8 g/m²
- K:5~12 g/m²
2.3 開花・結実(生殖期:Flowering/Fruit set)
- 期間:蕾形成~開花および初期の果実着果(ピンチング等含む)
- 吸収総量の目安:全体の30~40%(N・K)、Pも比較的高い
- 理由:花・果実の発生に伴い、N・P・Kの吸収速度が一層高まる。特にKは着果・果房肥大時に急増。NPKバランスはややK寄りへシフト。
- 目安値
- N:6~8 g/m²
- P:1.5~2.4 g/m²
- K:9~14 g/m²
2.4 果実肥大・成熟期(Fruit enlargement/maturation)
- 期間:初期果実拡大~収穫・最終熟期まで
- 吸収総量の目安:全体の40~60%(N・K)、Pは吸収がやや低減
- 理由:果実肥大・糖度向上・品質安定のため、特にKの高吸収が続く。Nは過剰だと徒長・品質低下につながるため適量管理が重要。
- 目安値
- N:8~12 g/m²
- P:2.2~3.5 g/m²
- K:14~20 g/m²
3. 推定方法および根拠
- 上記の値は、日本および国際的な収量対応吸収量データ(g/m²)をベースとした上で、各ステージの吸収比率(5~10%・20~30%・30~40%・40~60%)を積算した。
- 吸収比率は主に以下の要素を根拠として設定[2][4][5][6][7]:
- 国内外の農業普及資料や論文における、花房形成期以降の吸収集中傾向
- 栽培現場での施肥分割実績(基肥・追肥比率や施肥時期)
- ステージ間の吸収速度推移を示した実証データ
- リンの吸収ピークは栄養成長期~開花初期で、その後やや頭打ちとなるが、果実期にも基礎代謝用として一定量が必要とされる[3][4]。
- Kの吸収ピークは開花期から果実肥大・成熟期まで高水準で継続する。
- 株間や栽培密度、管理体系による微細な差異はあるものの、上記の比率は一般的な施設・露地栽培どちらにも適用可能な範囲。
4. 品種・環境要因による変動
- 品種による吸収量配分の顕著な差異は、長期間栽培や特殊系統以外は通常大きくない[1][4][7]。
- 環境要件(温度・灌水・養分管理)により総吸収量が多少上下するが、成長ステージごとの相対的配分は共通。
- したがって、個々の条件に合った施肥微調整が最適だが、一般的な推定値として十分信頼性が高い。
5. まとめ表:ステージ別NPK吸収量(g/m²、10kg/m²収量モデル)
| 成長ステージ | N(g/m²) | P(g/m²) | K(g/m²) |
|---|---|---|---|
| 発芽・苗期 | 1~2 | 0.3~0.6 | 2~4 |
| 栄養成長期 | 3~6 | 1~1.8 | 5~12 |
| 開花・結実(生殖期) | 6~8 | 1.5~2.4 | 9~14 |
| 果実肥大・成熟期 | 8~12 | 2.2~3.5 | 14~20 |
※各数値は、標準的な収量・密植度を想定。
6. 参考:施肥設計や現場マネジメントへの応用
- 各フェーズでの摘心・追肥設計など実際の施肥プログラムに直接連動できる。
- 果実肥大期以降のK追肥量は、品質管理(リコピン・糖度維持、尻腐れ軽減等)と密接に関係。
- N過剰時の徒長や果実品質劣化リスクの防止には、成長ステージに応じた量的管理が重要。
7. 結論
トマトのNPK吸収は成長ステージごとに明確なピークとシフトが存在する。今回まとめた推定値・配分比は、主要な科学的・農学的根拠、および複数の日本語・英語の一次資料を統合したものであり、実践的な施肥設計や生育管理のベースラインとして利用できる。
Sources
[1] トマトの施肥|養分吸収の特性から成長ステージごとの施肥調整まで: https://www.zero-agri.jp/guide/fertilization-for-tomato/
[2] Absorption of Nutrient Ions by the Tomato Plant at Various Stages of Development: https://scholarworks.uni.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=2894&context=pias
[3] Evaluation of the Nutrients Uptake by Tomato Plants in Different Phenological Stages Using an Electrical Conductivity Technique: https://www.mdpi.com/2077-0472/11/4/292
[4] TOMATO - CA.gov (Nitrogen Fertilizer Management for Processing Tomatoes): https://apps1.cdfa.ca.gov/FertilizerResearch/docs/TomatoBrochure.pdf
[5] N and K for Tomato Production - e-GRO: https://e-gro.org/pdf/E809.pdf
[6] 促成トマトの養液土耕栽培における窒素施肥量削減: https://www.pref.ibaraki.jp/nourinsuisan/enken/seika/yasai/tomato/documents/s1711.pdf
[7] 第1章 緒 論 - 北海道立総合研究機構: https://www.hro.or.jp/upload/14994/139.pdf
[8] トマト養液栽培における施肥の量的管理法: https://www.kankyou-marc.jp/fukyuu/pdf/820228.pdf