ほうれん草（Spinacia oleracea）の成長ステージ別NPK（窒素・リン・カリウム）吸収量に関する総合調査報告

概要

本報告は、ほうれん草（ほうれんそう）が各成長ステージ（発芽期、生育期、抽苔・開花期）で吸収する窒素（N）、リン（P）、カリウム（K）の量（g/m²単位）について、国内外の主要農学論文や文献を基に、できるだけ定量的かつ段階別に整理したものです。各ステージごとの直接的な吸収量データがまれであるため、収量や日数・乾物重の増加に基づく推定方法や、そのロジックについても詳細に記述します。

ほうれん草の成長ステージと栄養吸収の特徴

1. 成長ステージの概要

• 発芽期（0-2週間）
  種子が発芽し、子葉が展開。生育・吸収ともにきわめて緩慢。

• 生育期（約3-5週間）
  本葉が増加し、乾物重の急増期。NPK吸収が飛躍的に増大し、主要な養分需要期となる。

• 抽苔・開花期（遅延および抽苔後）
  一般的な作型（収穫）は抽苔前までがほとんど。抽苔・開花期は栄養吸収が鈍化、もしくは観賞・種子採種の場合のみ重要となる。

2. NPK吸収の一般的な傾向

• NPK吸収はいずれも発芽期はごくわずか、生育後半で急増し、収穫（抽苔前）直前で最大に達する。
• 各時期ごとの吸収量は、乾物重増加曲線や組織のNPK含有率に基づいて推計可能。
• 国内文献でも「播種後23日目以降に急激に窒素吸収が増加する」と明記されている[1]。

成長ステージ別NPK吸収量（g/m²）– 実測値および推定値

1. 発芽期（播種〜2週間）

• N吸収：0.78g/m²
• P吸収：0.07g/m²
• K吸収：0.81g/m²

参考データ：
Heinrich et al. (2013)[2]によると、最初の2週間のN吸収は7.0lbs/acre（0.785g/m²）と報告。PおよびKも同じく計算変換。

2. 生育期（2〜4週間：急成長期）

• N吸収：6.75g/m²（＝1日あたり0.48g/m²×14日間）
• P吸収：0.94g/m²（＝1日あたり0.067g/m²×14日間）
• K吸収：12.25g/m²（＝1日あたり0.88g/m²×14日間）

参考データ：
一日当たり吸収量（4.3lbs/acre/day, 7.8lbs/acre/dayなど）を日数で積算[2][3]。

3. 抽苔・開花期

• 通常の青果栽培では抽苔・開花まで栄養吸収の定量データは少ない。
• 商用では収穫は生育（本葉展開〜抽苔直前）で終了するため、この時点でNPK吸収量はピークを迎え、抽苔・開花期以降は消費・吸収ともに大幅に減少。
• もし抽苔・開花期の吸収量を表現する場合、前段の合計約5〜10%程度の追加吸収が見込まれるが、実用上はほとんど意味を持たない。

合計値

成長ステージ	N (g/m²)	P (g/m²)	K (g/m²)
発芽期	0.78	0.07	0.81
生育期	6.75	0.94	12.25
抽苔・開花期	≒0	≒0	≒0
合計	7.54	1.01	13.06

（主要NPK吸収は発芽〜生育期に集中する）

各値の算出根拠・ロジック

• 単位換算：1エーカー＝4046.86m²、1ポンド＝453.592g
• 吸収量→g/m²変換：
  例）N 7.0lbs/acre＝7.0×453.592/4046.86≒0.785g/m²
• 生育期間中は各ステージごとの乾物重増加分×組織内NPK濃度で積算[2][3][4]。

日本および国際文献での傾向・一致点

• 日本文献[1]では「23日目以降で吸収速度が著増」とあり、主要海外文献[2][3]でも同様に「初期は緩慢、主吸収は生育後半」と記される。
• 抽苔期での吸収量は大半の品目・作型で実用的ではない。
• 国内外の主要施肥指針や栄養吸収モデルは上記区分にほぼ一致する[2][3][4][5]。

推計値を用いる場合の標準ロジック

• 乾物重増加モデル：各成長ステージの日数、乾物重増加量、NPK含有率（%）を使い、段階ごとに吸収量を算出。
• 全体吸収量×吸収分布割合：調査区分と日数を基に分配計算する。

まとめ

• ほうれん草のNPK吸収は生育後半（播種3週目〜収穫）に急増し、相対的に発芽期はごく少量。
• 各ステージの吸収量は、乾物重増加量・日数・栄養濃度データにより推算可能。
• 実用上は発芽〜本葉展開期に0.8g/m²前後、主生育期（2〜4週間）に6〜13g/m²程度（N・K）、Pは1g/m²程度が目安。
• 抽苔・開花期の吸収量は、生食用ほうれん草では大きな意味を持たない。

参考文献

Sources

[1] Effect of Drip Fertigation System on Nitrate Control in Spinach: https://www.jstage.jst.go.jp/article/dojo/77/1/77_KJ00004597967/_article/-char/en
[2] Nutrient and Water Use of Fresh Market Spinach in, ASHS Journals, Heinrich et al. 2013: https://journals.ashs.org/view/journals/horttech/23/3/article-p325.xml
[3] UCANR “Nutrient Uptake by Spinach” PDF: https://ucanr.edu/?legacy-file=138251.pdf&legacy-file-path=sites/uccemontereycounty/files/
[4] Nitrogen Use Efficiency in Spinach (Spinacia oleracea L.): https://edepot.wur.nl/288018
[5] Nitrogen fertilization strategies to reduce the risk of nitrate leaching in baby leaf spinach production: https://opus.hs-osnabrueck.de/files/4978/Nitrogen_fertilization_strategies.pdf
[6] Growth and shoot:root partitioning of spinach plants as affected by nitrogen supply: https://www.researchgate.net/publication/230489800_Growth_and_shootroot_partitioning_of_spinach_plants_as_affected_by_nitrogen_supply
[7] Soil–Plant Nutrient Relationship at Different Growth Stages of Spinach as Affected by Phosphorus and Manure Applications: https://www.researchgate.net/publication/232883375_Soil-Plant_Nutrient_Relationship_at_Different_Growth_Stages_of_Spinach_as_Affected_by_Phosphorus_and_Manure_Applications

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本報告は現時点の主要農学データを網羅し、実際の施肥設計や生育診断の参考となる数値・推計根拠を示しています。