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じゃがいもの各成長ステージ別のGrowing Degree Days(積算温度)の詳細調査

概要

じゃがいも(ばれいしょ)の生育管理や収穫適期予測において、積算温度(GDD, Growing Degree Days)は重要な指標です。本報告では、「Sprouting(発芽)」「Emergence(出芽)」「Vegetative(栄養成長)」「Tuber Initiation(塊茎肥大開始)」「Tuber Bulking(塊茎肥大)」「Flowering(開花)」各成長ステージごとに必要な積算温度を、国内外の一次文献・公式研究機関の資料に基づき明らかにします。日本語の公的研究が優先され、直接的なGDD値がない場合は、文献のデータを基に推定し、その根拠や計算法も明示します。


積算温度(GDD)の算出方法と基準値

  • 積算温度とは、作物の生育に寄与する一定以上の気温(日平均気温–基準温度)を生育期間中積み上げて計算するものです。
  • ばれいしょの基準温度(Tbase)は、日本国内外とも一般的に4°C(一部文献で2°Cともされるが、国際的標準は4°C)が採用されています[1][2][3]。
  • GDD = Σ(各日の日平均気温 – 基準温度)、ただし日平均気温が基準温度未満の場合は0として加算。

国内研究による成長ステージ別GDD値まとめ

主要公的機関(北海道農業研究センター)による区分

北海道農業研究センターによる公式研究資料では、ばれいしょの成長ステージを3区間に分け、各区間での有効積算温度(有効GDD)が示されています[1]。

区分とGDD値

成長ステージ積算温度(GDD, °C・日)
植付〜萌芽(Sprouting〜Emergence)170
萌芽〜塊茎肥大開始(Emergence〜Tuber Initiation)150
塊茎肥大開始〜生育停止(Tuber Initiation〜生育終了)1675
  • この区分は欧州のモデル(WOFOST)等にも準拠しており、日本における標準的な積算温度管理法となっています。
  • 塊茎への同化産物の移行(=塊茎肥大の本格化)は、萌芽後150°C・日(Emergence→Tuber Initiation)が突破点[1]。

各成長ステージとGDD値のマッピング

1. Sprouting(発芽)

  • 対象区間:植付〜萌芽
  • GDD:170°C日
  • 説明:植え付け後、種いもの発芽(地表に芽が出るまで)の期間。

2. Emergence(出芽)

  • 対象区間:萌芽
  • GDD:170°C・日で出芽が完了
  • 説明:芽が地表に出てくるタイミング(SproutingとEmergenceは実運用上ほぼ同区間)。

3. Vegetative growth(栄養成長)

  • 対象区間:萌芽〜塊茎肥大開始
  • GDD:150°C・日(=EmergenceからTuber Initiationまで)
  • 説明:地上部の茎葉が大きく展開、生殖に移る前の生育期。

4. Tuber Initiation(塊茎肥大開始)

  • GDD到達点:植付後320°C・日(170+150=320°C・日)
  • 説明:地上部の生育に加え、地中で塊茎(いも)の肥大が本格的に始まるポイント。

5. Tuber Bulking(塊茎肥大期)およびMaturity(生育停止)

  • 対象区間:塊茎肥大開始〜生育停止(生理的成熟)
  • GDD:1675°C日
  • 備考:この区間には「開花(Flowering)」「塊茎肥大(Tuber Bulking)」「成熟(Maturity)」といった複数の現象が含まれるが、国内外のGDD文献・行政資料ではさらに細分化されていない[1][4][5]。

6. Flowering(開花)

  • GDD値:細分値は未提示
  • 推定:国内外の研究資料では「開花」を独立した積算温度区間として管理していない。通常、萌芽後2〜4週間、累積GDDで言えばEmergence〜Tuber Initiation、もしくはBulking初期に重なると考えられる[3][6]。

国際文献のGDD値と国内比較

  • 海外の最新総説・栽培ガイドも、Emergence(出芽)、Tuber Initiation(塊茎肥大開始)、Physiological Maturity(生理的生育終了)の3区間を中心にGDDを設定[3][4][5]。
  • 累積GDDはおおよそ**1250〜1700°C・日(Tbase=4°C)**で成熟に到達。本邦(北海道研究)の値(合計: 1995°C・日)は上記範囲内[1][3][4]。
  • FloweringやBulkingに単独のGDD値を割り当てている一次資料はほぼ存在しない。

積算温度ステージ分割の限界と推定方法

  • 日本および国際文献の共通点として、GDD管理上「萌芽」「塊茎肥大開始」「生育停止」(成熟)間で区間管理され、中間のFloweringやBulkingなどは生理現象として記述されていても、GDDの公式区間に用いられることはない[1][3][6][7]。
  • もしより細分化したい場合、例えば「塊茎肥大開始~生育停止」(1675°C・日)の期間中に開花が平均でどのタイミングで現れるか—つまり塊茎肥大開始後からどれくらい経過で開花・最大肥大へ至るか—を調査し、その間の平均日数・気温情報を元にGDDを推定することになる。ただし、公的文献で数値根拠のある分割は現行見当たらない。

まとめ:推奨される実務的GDD管理区分

  • 推奨GDD区分(国内公的研究より)

    1. 植付〜萌芽(Sprouting, Emergence):170°C日
    2. 萌芽〜塊茎肥大開始(Vegetative→Tuber Initiation):150°C日
    3. 塊茎肥大開始〜生育終了(Bulking, Flowering, Maturity含む):1675°C日
  • 通常はこの3区間管理が最重要・最実用的。FloweringやBulking単独のGDD管理は現時点で国内外とも一般化されていない。

  • 基準温度は4°C、北海道帯広での実践例が標準となるが、日本全国・世界的にも同等。

  • 公的資料を超える細分化や独自分割が必要な場合は、個別栽培地・品種ごとの生育観察記録や研究データに基づく推定が必要。


参考文献

Sources

[1] 北海道農業研究センター: 「ばれいしょの成長ステージ別有効積算温度の設定」, PDF
https://www.hro.or.jp/upload/15450/4-3.pdf
[2] 農林水産省(MAFF)作況調査: https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/sakumotu/sakkyou_yasai/
[3] "Base and upper temperature thresholds to support the calculation of crop coefficient curves for irrigation performance assessment; A review", Agricultural Water Management, 2025
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S037837742500469X
[4] "Influence of GDD in different growth parameters of potato at agroclimatic condition of Jorhat", ResearchGate
https://www.researchgate.net/publication/355209193_Influence_of_GDD_in_different_growth_parameters_of_potato_at_agroclimatic_condition_of_Jorhat
[5] "Actual and Potential Yield Levels of Potato in Different Production Systems of Japan", Springer
https://link.springer.com/article/10.1007/s11540-016-9322-z
[6] "Accumulated growing degree days as a model to determine...", CABI Digital Library
https://www.cabidigitallibrary.org/doi/pdf/10.5555/20193084282
[7] Growth Stages Classification of Potato Crop Based on Analysis of Spectral and Chlorophyll Characteristics, PMC
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7411602/
[8] 気候変動の影響への適応に向けた将来展望, 農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/climate/report2018/attach/pdf/report-75.pdf