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玉ねぎ主要成長ステージごとの積算温度(GDD)要件 ─ 詳細総合解説

概要

玉ねぎ(Allium cepa L.)は、その生育過程で温度の積算(Growing Degree Days, GDD/積算温度)に強く影響される作物です。GDDは各成長ステージでの到達および進行を予測・管理する上で不可欠な指標であり、基準温度(Base Temperature, Tbase)や地域気候によっても異なります。本報告では、日本または類似気候下での玉ねぎの各主な成長ステージ(発芽、栄養成長、球形成、開花・採種)ごとに必要とされるGDDについて、既存文献・指導資料から直接的数値や推定値を提示し、計算根拠と出典を明記します。

基準温度(Base Temperature)とGDDの算出方法

玉ねぎのGDD積算時に最も広く用いられる基準温度(Tbase)は5°Cです。これは日本の農業研究や主要文献(Lancaster ら 1996 等)にもとづき国内実践でも採用されています[1][2]。

GDD算出式(単純型)
GDD = Σ((日平均気温 − 基準温度) × 日数)

以下、各成長ステージ別にGDD要件を詳述します。

各成長ステージのGDD要件

1. 発芽期(発芽:Sowing to Emergence)

  • 最適発芽温度:15~20°C
  • 発芽までの日数(適温下):7日程度
  • 参考根拠
    • 「発芽適温は15度~20度。適温なら7日程度で発芽」[3][4]
    • 海外でも同様の発芽適温および期間が報告[5]

GDD推定(日本標準条件下)

  • 基準温度:5°C
  • 日平均気温:18°C(最適発芽温度の中央値とする)
  • 日数:7日

→ GDD = (18 − 5) × 7 = 91°C・日

2. 栄養成長期前期(育苗期:Sowing to Transplant)

  • 育苗期間:播種から3〜4枚葉(定植適期)まで約55日間
  • 標準播種時期/平均気温:9月中旬(約15°C)
  • 参考根拠
    • 「育苗期間は約55日程度、3~4枚葉で定植」[1][4]
    • 「発芽後6葉目出葉までは積算気温1000°C程度、播種後約65日」[6]

GDD推定

  • 基準温度:5°C
  • 日平均気温:15°C
  • 日数:55日

→ GDD = (15 − 5) × 55 = 550°C・日

3. 栄養成長期後期(定植後〜球形成開始)

  • 時期:11月下旬~3月上旬(秋播き玉ねぎの場合)
  • 冬季の気温低下により休眠または生育停滞し、早春以降気温上昇と共に生育再開[1][7]
  • GDD推算はバラツキ大(生理的休眠をはさむため)、栄養成長の主な積算温度要求は春季球形成期に集中。

4. 球形成・肥大期(Bulb Formation)

  • 球形成開始の指標:増加する日長(春分以降)、平均気温の上昇
  • 球形成〜収穫までの期間:40〜60日(品種・気候による差あり)
  • 球形成・肥大の最適温度:15~25°C
  • 参考根拠
    • 「球の形成肥大の適温は15~25°C」「球形成期は4~6月」[1][4]
    • 「玉葱の球形成には最低でも600°C・日の積算温度が必要(フォトペリオド条件下)」[2]
    • 諫早湾干拓地・富山県等の調査も同傾向[7]
    • 世界的な文献でも「バルビングは600~900 GDD必要」とされる[8]

GDD推定

  • 基準温度:5°C
  • 日平均気温:20°C(春季平均化として)
  • 日数:40~60日

→ GDD = (20 − 5) × 40~60 = 600~900°C・日

5. 開花・採種期(Flowering / Seed Set)

  • 開花誘導(バーニャライゼーション)

    • 5~13°Cで90~120日、特に5~10°Cでの低温期間が必須(積算温度というより“低温要求”)[9]
    • 種玉ねぎの場合は開花のため十分な低温処理が必要
  • 開花~採種まで

    • 海外報告:ボルティングから種子成熟まで、基準温度10°Cの場合900°C・日が必要[10]
    • 上記を基準温度5°Cで換算すると約一ヶ月半から二ヶ月(平均気温15°C×60日=600°C・日)

GDD推定(開花〜採種)

  • 基準温度:5~10°C(文献により異なるが、日本型露地栽培は5°Cが妥当)
  • 日平均気温:15°C(4~6月の標準)
  • 期間:60日

→ GDD = (15 − 5) × 60 = 600°C・日(※10°C基準では900°C・日)

総合GDD推定値一覧表

成長ステージ目安積算温度(GDD, °C・日)算出根拠および条件
発芽約907日間, 日平均18°C, 基準温度5°C
育苗期(栄養成長前期)約55055日間, 日平均15°C, 基準温度5°C
球形成・肥大600~90040~60日間, 日平均20°C, 基準温度5°C
開花・採種600~900開花後~採種, 60日, 日平均15°C, 基準温度5°C、または基準10°Cで900°C・日

注意点と活用のための留意事項

  • 地域・年次・品種(極早生・中晩生ほか)によってGDDのばらつきや反応性はあり、あくまで標準目安値として活用。
  • 実際の栽培管理では、気象データと圃場観測を併用して成長ステージの把握・管理を行うのが最良。
  • 低温処理(バーニャライゼーション)は開花・採種期の誘導に不可欠だが、これは積算温度ではなく「低温日数」で管理される。
  • 球形成期の積算温度は日長条件(春分以降等)と密接に連動するため、単独ではなく総合的管理が必須。

まとめ

本報告では、日本もしくは類似気候条件下の玉ねぎの発育各段階ごとに積算温度(GDD)要件を体系的に整理した。直接的数値が得られない場合は、出芽等の日数や気温区分に基づいて推定値を示し、計算式と根拠を明記した。実際の栽培現場では、地場の気候や品種特性も加味した柔軟な運用が求められる。参考文献・マニュアル等の詳細出典を付すため、さらなる理解と現場応用にご活用いただきたい。


Sources

[1] たまねぎ(秋播き春穫り): https://www.ja-nanto.or.jp/farming/document/family-farm/tamanegi.pdf
[2] Bulbing in Onions: Photoperiod and Temperature Requirements and ...: https://academic.oup.com/aob/article-pdf/78/4/423/7982622/780423.pdf
[3] タマネギ 発芽日数: https://タマネギ栽培.com/タマネギ栽培-qa/タマネギ-発芽日数.html
[4] タキイのタマネギ栽培マニュアル | 野菜栽培マニュアル: https://www.takii.co.jp/tsk/manual/tamanegi.html
[5] JAPANESE BULB ONION: PRODUCTION, CONSUMPTION, AND ...: https://bibliotekanauki.pl/articles/55789021.pdf
[6] タマネギにおける秋播きと春播きの生育様相の違い...: https://www.jstage.jst.go.jp/article/hrj/22/4/22_267/_pdf/-char/en
[7] PDF 諫早湾干拓地における中晩生タマネギの生育の推移...: https://www.pref.nagasaki.jp/e-nourin/nougi/theme/research_report/PDF/S8-1.pdf
[8] Growth responses of tropical onion cultivars to photoperiod and temperature...: https://www.researchgate.net/publication/264893889_Growth_responses_of_tropical_onion_cultivars_to_photoperiod_and_temperature_based_on_growing_degree_days
[9] Flowering and Seed Development in Onion—A Review - Scirp.org: https://www.scirp.org/pdf/oalibj_2016031813225045.pdf
[10] ONION FLOWERING AND SEED PRODUCTION - jstor: https://www.jstor.org/stable/45126745