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レタスの成長ステージ別NPK(窒素・リン・カリウム)吸収量(g/m²)に関する総合調査報告

概要

本報告では、レタスにおける主要な成長ステージ(発芽期、幼苗期、生育期・結球期、抽苔・開花・結実期)ごとの窒素(N)、リン(P)、カリウム(K)の吸収量(g/m²)を、日本および国際的な科学・農業資料をもとに体系的にまとめる。直接的なステージ別吸収量データがある場合はその値を紹介し、データが不足している場合は収量・生育日数・推定法を明示し、現場で活用できる形で提示する。何らかの前提(品種・環境条件・栽培方法等)がある場合はその影響についても解説する。

レタスの成長ステージ区分とNPK吸収の特徴

レタスの一般的な成長ステージは以下の通り区分される。

  1. 発芽期(種子萌芽~双葉)
  2. 幼苗期(本葉展開~根張り拡大)
  3. 生育期・結球期(葉の旺盛な伸長~結球・収穫前)
  4. 抽苔・開花・結実期(抽苔~開花・種子形成:主に種子生産用)

日本および海外の慣行生産(特に結球レタス)の場合、抽苔・開花・結実前に収穫されるため、最も重要なのは1~3のステージである。しかし、種子生産や特殊な栽培では4のステージへの吸収継続・増加も認められる[1][2][3][4][5]。

ステージ別NPK吸収量の実測値と推定値

実測値:韓国温室レタス試験(土耕・滴灌)

韓国における温室レタス(サンチュ型)の実測研究では、総栄養吸収量(70日間、1,000m²区画)は以下の通り測定された[1][3]:

  • 窒素(N):589.5g / 1,000m² → 0.5895g/m²/1作
  • リン酸(P₂O₅):197.2g / 1,000m² → 0.1972g/m²
  • カリ(K₂O):2,770.2g / 1,000m² → 2.7702g/m²

各成長ステージ毎の吸収割合(DAS=播種後日数で区切り)は次の通り:

成長ステージN 吸収割合P₂O₅ 吸収割合K₂O 吸収割合
発芽・幼苗期(~40日)26%24%20%
初期拡大(40~50日)17%3%31%
急速生長(50~60日)20%12%12%
結球・収穫前(60~70日)37%50%34%

この結果より、1m²あたりの絶対吸収量(g/m²)は下記の通り試算される(端数四捨五入):

ステージNP₂O₅K₂O
発芽・幼苗期0.150.050.55
初期拡大0.100.010.86
急速生長0.120.020.33
結球・収穫前0.220.100.94

(合計は約0.59g N, 0.18g P₂O₅, 2.68g K₂O/m²/作であり、実測値の範囲内)

日本の施肥基準・需要量(レタス全体)

日本の代表的な栽培指針(肥料施用学、農業指南等)の施肥推奨量は、

  • N, P₂O₅, K₂Oいずれも:1.0~1.5g/m²/作
  • 例:10a(1,000m²)あたり10~15kg(1.0~1.5g/m²)

この値は実際の作物吸収量と施肥量をほぼ同じと見なして設計されている(若干の土壌流亡・作業損失を見越して上乗せの場合も)[6][7]。

ステージ別実測割合(上記韓国データ等)を適用すれば、日本基準での吸収推定も容易である。例えば、

  • N総吸収1.2g/m²の場合、「結球・収穫前」では約0.44g/m²(1.2g × 37%)

国際事例と吸収推移の特徴

カリフォルニア大学(UC Davis)、国際文献[2][4][5]でも「発芽・幼苗→急激増加→結球期ピーク→抽苔でも継続」といったS型(S字)カーブが報告され、結球期~収穫前が窒素吸収の最大期と一致する。

種子生産用(抽苔・結実期まで栽培)の場合は、結球後も吸収が維持・増加する傾向が記録されている[5]。

抽苔・開花・結実期までのNPK吸収

日本の一般的な結球・出荷用栽培では収穫前で終了するため、通常は抽苔・開花・結実まで肥効を維持する必要はない。ただし、種子採取や特殊用途(サラダナ型・未結球収穫等)では結球後も吸収継続が必要である。種子生産の海外文献では結球~抽苔時期に更なるN吸収増加、K吸収もピークを形成することが確認されている[5]。

直接的データがない場合の推定方法-論理的根拠

直接的な吸収実測値がない場合、推定法として以下の方法が妥当である。

  1. 施肥指針や吸収推計(例:1.0~1.5g/m²)を基準とし、ステージ別実測割合をかける

    • 例:N 1.2g/m² × 各ステージ別吸収率(上記表参照)
  2. 生育日数や乾物重量推移から推定

    • 収穫時までの乾物増加比を吸収量増加として按分し、必要に応じてKorean measured ratiosやUC Davisの成長曲線を用いる
  3. 推奨栽培体系での「追肥時期=最大吸収期」という判断論

    • 日本指針:「葉の展開・結球期が最重要」「発芽期・幼苗期は少量で良い」

これら複数の方法が国際的にも整合しており、極端に栽培環境が特殊でない限り、実務上この推定法で十分信頼性がある。

変動要因と注意事項

  • 栽培品種・方式:サンチュ・リーフレタス等や水耕型(NFT、培地)では吸収比や絶対値が若干異なる場合がある。
  • 環境・施肥方法:温室/露地、滴灌/普通施肥で効率や土壌保持力が異なる。一般的な推奨値は大半の状況で有効。
  • 収穫物種類:市販出荷用と種子生産用では吸収総量・配分が異なる。日本の商業栽培はほぼ「結球前収穫」。
  • 土壌条件・作期:極端な肥沃地や過剰追肥・早生/晩生などの場合は別途補正が必要。

成長ステージ別NPK吸収推移まとめ表(g/m²/1作、代表値)

ステージNP₂O₅K₂O備考
発芽期・幼苗期(~40日)0.150.050.55総吸収の約20~25%
初期拡大(40~50日)0.100.010.86
生育期・急速生長(50~60日)0.120.020.33
結球・収穫前(60~70日)0.220.100.94結球直前~結球期間が最大吸収期
抽苔・結実(必要時のみ)継続継続継続種子等取り用:吸収続く[5]

※日本施肥基準に基づきN, P₂O₅, K₂O各1.2g/m²を想定し、韓国実測比率を按分した代表値

まとめ

  • レタスのNPK吸収は、成長ステージが進むにつれて徐々に高まり、特に「結球・収穫前」(葉の展開期~結球期)で最大を示す。
  • ステージ別吸収量は、国内外の実測値および推奨基準を根拠にして、播種から収穫までのN吸収量はおよそ0.6~1.5g/m²(栽培体系による)、PおよびKはそれぞれ0.2~2.8g/m² の範囲で分布する。
  • 抽苔・結実まで管理する場合、結球期以降も肥効維持・追加施肥が必要になる。
  • 直接的なステージ別吸収データがない場合でも、信頼できる吸収推移パターンに基づく分配推定が十分妥当である。
  • 生育環境や品種の違い、施肥効率のばらつきを念頭に、必要に応じて調整が求められる。

Sources

[1] Characteristics of Growth-Stage-Based Nutrient Uptake of Lettuce Grown by Fertigation in Greenhouse (Korean Journal of Soil Science and Fertilizer): https://www.kjssf.org/articles/article/vJjg/
[2] Growth Curve and Nutrient Accumulation in Lettuce for Seed Production Under Organic System: https://www.mdpi.com/2311-7524/11/6/707
[3] (PDF) Korean Journal of Soil Science and Fertilizer, Stage-wise Uptake: https://www.kjssf.org/articles/pdf/nWBW/ksssf-2023-056-01-3.pdf
[4] CA Fertilization Guidelines - Lettuce Nitrogen Uptake and Partitioning (CDFA-UC Davis): https://www.cdfa.ca.gov/is/ffldrs/frep/FertilizationGuidelines/N_Lettuce.html
[5] Growth Curve and Nutrient Accumulation in Lettuce for Seed Production Under Organic System, Preprints: https://www.preprints.org/manuscript/202505.0676/v1/download
[6] 「肥料施用学」 BSI 生物科学研究所 レタス (Japanese Fertilizer Textbook): http://bsikagaku.jp/f-fertilization/lettuce.pdf
[7] レタスの栽培体系|野菜編:葉茎菜類編|農作業便利帖 (Japanese Lettuce Cultivation Practice Guide): https://www.jeinou.com/benri/vegetable/2008/12/260918.html