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ナス（茄子）の各成長ステージごとの温度要件総合まとめ
概要
ナス（茄子）は高温性作物として知られ、それぞれの成長ステージで最適温度や臨界温度範囲が厳密に管理されることで、発芽・健全な苗・着果・果実肥大・収穫に至るまでの生育安定と高品質収量が実現されます。以下は、日本の学術・技術資料や各種普及指導資料をもとに、ナスの主な成長ステージごとの温度パラメータ（optimal_min, optimal_max, base_temperature, low_stress_threshold, high_stress_threshold, max_temperature, frost_threshold、および開花期sterility_risk_threshold）を体系的に整理したものです。それぞれの値や用語には文献による幅または定義の差異があることも明記しています。
主な成長ステージと日本語表記
- 播種（はしゅ, sowing）
- 発芽（はつが, germination）
- 育苗（いくびょう, seedling/nursery）
- 定植（ていしょく, transplanting）
- 栄養成長（えいようせいちょう, vegetative growth）
- 摘心（てきしん, pinching/pruning）
- 開花（かいか, flowering）
- 着果（ちゃっか, fruit set）
- 果実肥大（かじつひだい, fruit enlargement/growth）
- 収穫（しゅうかく, harvest）
本表では、日本で特に管理が重視される「発芽」「育苗」「栄養成長」「開花」「着果」「果実肥大（収穫含）」各段階を中心に整理しています。
成長ステージ別温度要件・パラメータ一覧
表: ナスの各成長ステージにおける温度パラメータ一覧
| 成長ステージ | optimal_min | optimal_max | base_temperature | low_stress_threshold | high_stress_threshold | max_temperature | frost_threshold | sterility_risk_threshold (開花期のみ) | 参考文献 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 発芽 | 20～25°C | 30～35°C | 11～15°C | 11～13°C | 35～37°C | 35～40°C | 10°C未満で極端に低下 | — | [1][2][3][4][5][6][7][8] |
| 育苗 | 22～25°C | 28～30°C | 12～13°C | 12～13°C | 30～32°C | 33～35°C | 0～3°C | — | [2][3][4][6][8][9][10][11] |
| 栄養成長 | 20～22°C | 28～30°C | 10～12°C | 13°C | 32～35°C | 35～37°C | 0～3°C | — | [2][4][6][8][11][12][13] |
| 開花（生殖成長） | 18～20°C | 28～30°C | 10～12°C | 13～15°C（特に夜温） | 35°C（夜温25°Cも注意） | 35～40°C | 3°C付近 | 15°C未満または35°C以上（受粉・結実不良） | [4][6][8][11][13][14][15][16][17] |
| 着果 | 15～18°C | 28～30°C | 10～12°C | 13～15°C（夜温） | 35～36°C | 35～40°C | 3°C付近 | — | [4][6][8][11][14][15][16] |
| 果実肥大・収穫 | 12～15°C | 28～30°C | 10～12°C | 12～13°C（夜温） | 35°C | 35～40°C | 3°C付近 | — | [2][4][6][8][11][14][15][16] |
パラメータ定義に関する注意
- optimal_min/optimal_max：生育が最も安定し速い範囲（昼夜差あり）。主に昼間温度を記載（夜温は特に開花・着果期に重要）。
- base_temperature（基準温度）：生理的な成長が観察される理論下限。実用的にはoptimal_minを重視。
- low_stress_threshold：明らかな生育鈍化や結実不良が出始める温度。とくに夜温に注意。
- high_stress_threshold：高温障害が出始める温度範囲。
- max_temperature：それ以上で急激に障害や致死となる温度。
- frost_threshold：霜害や組織死が起こる温度。多くの段階で3°C前後。苗では0°C前後で致死。
- sterility_risk_threshold：開花期のみ。開花・受粉・着果段階での実質的な不稔リスク域。夜温15°C未満/日中35°C超で花粉生産・発芽力とも低下し、結実率低下。
成長ステージ別 詳細解析と科学的背景
発芽期
- 最適温度（25〜30°C、もしくは20〜30°C）：発芽が最速・一斉に揃う。
- 発芽ベース温度（11～15°C）：ギリギリで発芽可能だが、発芽速度・率とも著しく下がる。
- ストレス閾値：10°C未満または35°C超で発芽ほぼ停止。光は不要（嫌光性種子）。
- 最大温度：35～40°C以上で不良発芽。長野県等の普及資料によると発芽上限35°C、40°C以上で不可。
- 霜害閾値：実質的には発芽段階では重要性低いが、10°C未満では発芽率極端に悪化。
- 資料：[1][2][3][4][5][6][7][8]
育苗期
- 最適温度：日中25〜30°C、夜間15〜20°C、22-30°C帯が望ましいとの普及・文献指摘あり。
- ベース（生育下限）温度：12〜13°C。これを下回ると成長停止や徒長苗リスク。
- ストレス閾値：12〜13°C以下で鈍化、30°C超でも生育不良や苗徒長（軟弱徒長）増加。
- 最大温度：30～32°C超では奇形・損傷リスク上昇。
- 霜害閾値：0～3°Cで苗死亡。10°C未満で傷害リスク有り。
- 資料：[2][3][4][6][8][9][10][11]
栄養成長期
- 最適温度：20～28°C、夜間12~15°C以上で健全成長。急激な温度変化は回避。
- 下限：10～12°C未満で完全停止。
- 高温ストレス：32-35°C超では生育抑制。
- 霜閾値：0～3°Cで被害。
- 資料：[2][4][6][8][11][12][13]
開花期（開花 → 受粉・着果）
- 最適温度：18～20°C（夜）～28～30°C（日中）が最も安定的。
- ベース温度：10～12°C、ただし花芽・生殖器官の正常発達には15°C以上（夜間）が必須。
- 低温ストレス閾値：夜温13～15°Cを下回ると不稔化・落花・着果不良が顕著。日本の施設栽培マニュアルでも“開花・着果期の夜温15°C維持”を強く推奨。
- 高温ストレス閾値：日中35°C以上で不良花、受粉障害（花粉管伸長不良、落花等）多発。
- 最大温度：40°C超でほぼ機能停止。
- 霜害閾値：3°C付近以下。
- 不稔リスク閾値（sterility risk threshold）：夜温15°C未満、または日中35°C超で急激に結実率が低下（花粉発芽率・受精率の低下）[4][6][8][11][13][14][15][16][17]。
- 資料：[4][6][8][11][13][14][15][16][17]
着果期・果実肥大〜収穫期
- 最適温度：日中28～30°C、夜間12～15°C（果実肥大安定）。
- 下限：10～12°C（生育停止）／夜温12°C未満で肥大不良や奇形増加。
- 高温ストレス：35°C（日中）超で肥大停止、変色・艶なし果等の品質低下。
- 最大温度：35～40°Cで被害甚大（着果・肥大せず）。
- 霜害閾値：3°C付近以下で果実損傷、収穫後の貯蔵管理では10°C未満で低温障害発生。
- 資料：[2][4][6][8][11][14][15][16]
用語・数値の曖昧性・地域差について
- 「ベース温度」は発育下限として10～12°Cとする文献が多いが、実用的には夜温15°Cを境に目安を引き上げる指導も多い。
- 霜閾値（frost threshold）は“組織死・致死レベル”として0–3°Cで記載されることが多く、収穫後の果実貯蔵では10°C未満で低温障害が問題となる。
- “高温障害”は35°C以上で発生しやすいが、地方や品種・栽培形態（ハウス農家 vs 露地農家等）で多少の差があり。
- 特に開花期における“sterility risk threshold”は、「夜間温度が15°C未満」「日中35°C超」で花粉発芽率や結実率が急激に低下するとの記載が多数。変動や短期的低温でもリスクが増すため、安定した温度管理が要。
まとめ
ナスは基本的に昼夜温度とも高温を好み、特に生殖成長ステージ（開花・着果）での安定した夜温15°C以上、日中35°C未満の管理が極めて重要です。発芽～育苗期には20～30°Cの安定維持、栄養成長・果実肥大期にも同様の温度帯が推奨されます。温度管理を怠ると、徒長苗、不稔、落花、変形果・品質低下など多様な障害を引き起こすため、各成長ステージでの“適温”と“危険閾値”を明確に意識した管理が求められます。日本の技術指導資料・学術論文はいずれも上記の温度パラメータを根拠としています。
参考文献
[1] 【図解】ナス栽培総まとめ【育てるなら理解しておきたい基礎講座】: https://www.youtube.com/watch?v=U0hcJpgTKNk
[2] ナス 発芽温度 - ナスの育て方.com: https://nasu-sodatekata.com/ナス栽培qa/ナス-発芽温度.html
[3] ナスが発芽しない原因と対策: https://kateisaiennkotu.com/faq/nasu_hatsugasinai.html
[4] 施設ナスの長期栽培技術 (AgriKnowledge): https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010845975.pdf
[5] 主な果菜類の発芽適温と育苗温度（生育適温）のめやす - 長野県: https://www.pref.nagano.lg.jp/sakuchi/nosei-aec/joho/gijutsu/documents/kasai-ondo.pdf
[6] 無加温半促成ナス栽培における授粉による着果安定のため の保温管理: https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010730717.pdf
[7] ナスにおける単為結果性と低夜温下での果実肥大性との関: https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010752825.pdf
[8] 玉ねぎ・ネギ・ナス・キャベツ・ほうれん草の産地リレーと仕入れ ...: https://www.cool-c.com/column/52
[9] 【ナス育苗】基本の育苗期間と栽培方法は？徒長を防ぐ温度管理も ... https://minorasu.basf.co.jp/80562
[10] Ⅱ ナスにおける環境制御ガイドライン - 愛知県: https://www.pref.aichi.jp/uploaded/attachment/412058.pdf
[11] ナスの栽培 | 公益財団法人 自然農法国際研究開発センター: https://www.infrc.or.jp/breeding/point/point-eggplant/
[12] ナス - BSI生物科学研究所: https://bsikagaku.jp/cultivation/eggplant.pdf
[13] 1 栽培上の特性 (MAFF): https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/hozen_type/h_sehi_kizyun/pdf/miyagi_yasai18_10.pdf
[14] 着果数に応じた収穫果実重の変更管理が 促成ナス栽培 ... - 愛知県: https://www.pref.aichi.jp/uploaded/attachment/374683.pdf
[15] Effect of light and temperature on the phenology and maturation of the fruit of eggplant (Solanum melongena) grown in greenhouses: https://www.researchgate.net/publication/248911654_Effect_of_light_and_temperature_on_the_phenology_and_maturation_of_the_fruit_of_eggplant_Solanum_melongena_grown_in_greenhouses
[16] Fruit Set in Solanaceous Vegetable Crops as Affected by Floral and Environmental Factors: http://www.globalsciencebooks.info/Online/GSBOnline/images/0812/EJPSB_2(SI1)/EJPSB_2(SI1)88-105o.pdf
[17] ナスを高温障害から守ろう ｜ コラム - セイコーエコロジア: https://ecologia.100nen-kankyo.jp/column/single284.html