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ナス（Solanum melongena）の各成長ステージごとに必要な積算温度（Growing Degree Days, GDD）に関する総合調査
概要
本報告は、ナス（Solanum melongena）の各主要成長ステージ――発芽、育苗、栄養成長、開花（生殖成長）、着果、果実肥大・収穫――における積算温度（GDD: Growing Degree Days）要件について、一次文献、普及資料、農業指導書等をもとに調査・推定したものである。直接的なGDD値が見つからないステージについては、基準温度、推奨温度範囲、平均的な経過日数を用い、温度積算法により推定値を算出した。主要データは日本語文献を優先し、不足部分は英語文献も補完として参照した。
積算温度（GDD）計算の基本
- 積算温度計算式：
GDD＝(日平均気温－基準温度)×経過日数 - 基準温度（Tbase）：ナスの場合、15°Cが最も一般的だが、成長ステージや系統によって13°Cや5°C（果実肥大用の一部日本文献）なども使われることがある。
- 最適温度：各ステージで多少異なるが、発芽・栽培全体で概ね22～30°Cが望ましい（栽培状況・系統により異なる）。
- 積算温度の統計的特徴：実際の積算温度や日数は立地、品種、栽培時期、年変動により大きく異なるため、目安値として使用し、現地環境に応じて適宜調整することが推奨されている[1][2][3][4][5][6][7][8][9][10][11][12][13][14][15][16][17][18][19][20][21]。
ステージ別 積算温度要件と推定値
1. 発芽
- 基準温度（Tbase）：15°C
- 最適温度：25～30°C（速やかな発芽には28°C前後が推奨、最大35°Cまで可）
- 平均発芽日数：7～14日（育苗用の加温下）
- 積算温度（GDD）の推定：
例）26°Cの育苗温度を想定すると、
GDD＝(26－15)×7～14＝77～154 GDD
の積算温度で発芽が完了[1][3][6][7][8][9][10]。
2. 育苗（発芽後～本葉2～3枚）
- 基準温度（Tbase）：15°C
- 最適温度：日中25～28°C・夜間16～18°C
- 平均日数：18～21日程度
- GDD値の推定：
日平均25°Cと仮定：GDD＝(25－15)×18～21＝180～210 GDD[3][6][7][8][9][10]。
3. 栄養成長（定植後～開花直前）
- 基準温度（Tbase）：15～15.6°C
- 最適温度：22～30°C
- 平均日数：定植後30～40日
- 直接的なGDD値：
・コロンビア圃場試験では、基準15.6°Cにて
栄養成長終了までに388.66 GDDを報告[12]。
・日本文献でも類似の数値が得られる[2][5][6][7][15]。
4. 開花（生殖成長開始）
- 基準温度（Tbase）：15°C
- 最適温度：22～30°C
- 平均発生日数：播種から50～60日（定植後30～40日）
- GDD値：
開花までの積算温度は、栄養成長と一体で把握されることが多く、およそ388～400 GDDが目安[2][7][12][15]。
5. 着果
- 基準温度（Tbase）：13～15°C
- 最適温度：20～28°C
- 特記事項：
・15°C未満や30°C超では着果率が低下する。
・着果自体は開花～数日間で進むことが多いため、独自のGDD値提示は少ないが、15°C基準で数日分のGDD(20～40)で進行とみなせる[1][2][7][8][12][15]。
6. 果実肥大・収穫
- 基準/効率的最低温度：
・日本の研究では果実肥大に5～5.5°Cを下限として用いる事例あり[17]
・通常は15°Cが多い（各国共通資料や栽培指導書） - 最適温度：肥大時は19.5～21.3°C
（22～30°Cも十分良好。夜間低温に強い台木ではさらに低温も可） - 推奨積算温度：
・花房開花～収穫まで900～1,100 GDD（15°C基準）が多数文献で一致
・平均気温20°Cの場合 約45～55日、25°Cなら36日、30°Cなら27日程度で収穫到達
・コロンビア試験（15.6°C基準）では892～1,078 GDD[12][16][17][18]
ステージ別積算温度 要約表
| 成長ステージ | 基準温度 (°C) | 最適温度 (°C) | 期間（日数） | GDD (累積, 基準15°C) | 主な出典 |
|---|---|---|---|---|---|
| 発芽 | 15 | 25～30（最大35） | 7～14 | 77～154 | [1][3][6][7][9] |
| 育苗 | 15 | 25～28（夜16～18） | 18～21 | 180～210 | [3][6][7][9][10] |
| 栄養成長（定植→開花直前） | 15.6 | 22～30 | 30～40 | 388.66 | [2][5][6][7][12][15] |
| 開花 | 15 | 22～30 | - | 388～400程度 | [2][7][12][15] |
| 果実肥大・収穫 | 13～15 | 19.5～21.3 | 20～37 | 900～1,100 | [12][16][17][18] |
※GDD＝(平均気温－基準温度)×日数 ※花房開花～収穫までのGDDは気温により大きく変動
積算温度値に関する追加的観点・注意点
- 日本の生産現場では、ナスの果実肥大期間（開花～収穫）について積算温度で管理する傾向が強く、特に約900～1100°C（基準温度15°C）が一般値として扱われている[12][16][17][18]。
- 台木や品種により、最低果実肥大温度が5°Cまで下がることがある（促成や抑制栽培で検証済み）[17][18]。
- 栽培地、品種、管理法、年次間で大きな違いがあるため、畑ごとのきめ細かい気温観測と組み合わせることで、GDDはより有効な目安となる[1][6][7][8][9][12][15][17]。
- 一般的な積算温度管理では「発芽」「育苗」「栄養成長」「開花」までは生育状況と日数で、「花～収穫」の果実肥大は積算温度で見るのが通例[12][16][17][18]。
- 海外研究および日本の台木研究ともに、開花～着果あるいは開花～収穫で900～1,100 GDD（基準温度15°C）が基準値として機能する[12][15][16][17][18]。
参考文献
[1] Eggplant - Department of Agriculture (南アフリカ)
https://www.nda.gov.za/phocadownloadpap/Brochures_and_Production_Guidelines/Brochure Eggplant.pdf
[2] 1 栽培上の特性 - 宮城県農業普及技術センター
https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/hozen_type/h_sehi_kizyun/pdf/miyagi_yasai18_10.pdf
[3] ナスの栽培 | 公益財団法人 自然農法国際研究開発センター
https://www.infrc.or.jp/breeding/point/point-eggplant/
[4] Growing Eggplant: From the Greenhouse to the Grill - Growing Spaces
https://growingspaces.com/blog/growing-eggplant/
[5] Eggplant | College of Agricultural Sciences - Oregon State University
https://horticulture.oregonstate.edu/oregon-vegetables/eggplant-0
[6] タキイのナス栽培マニュアル｜タキイ種苗
https://www.takii.co.jp/tsk/manual/nasu.html
[7] 主な果菜類の発芽適温と育苗温度（生育適温）のめやす - 長野県
https://www.pref.nagano.lg.jp/sakuchi/nosei-aec/joho/gijutsu/documents/kasai-ondo.pdf
[8] Ⅱ ナスにおける環境制御ガイドライン - 愛知県
https://www.pref.aichi.jp/uploaded/attachment/412058.pdf
[9] Eggplant - Arkansas Cooperative Extension Service
https://www.uaex.uada.edu/publications/pdf/FSA-6010.pdf
[10] Solanum melongena (Aubergine, Brinjal, Eggplant) - Plant Toolbox
https://plants.ces.ncsu.edu/plants/solanum-melongena/
[11] Postharvest Research and Extension Center - UC Davis
https://postharvest.ucdavis.edu/produce-facts-sheets/eggplant
[12] Accumulation of degree days and their effect on the potential yield of 15 eggplant (Solanum melongena L.) accessions in the Colombian Caribbean
https://www.redalyc.org/journal/1799/179961330004/html/
[13] Appropriate Six Equations to Estimate Reliable Growing Degree Days for Eggplant
http://www.idosi.org/aejaes/jaes13(9)13/4.pdf
[14] Using Growing Degree Days to Predict Plant Stages – Montana State University
https://landresources.montana.edu/soilfertility/documents/PDF/pub/GDDPlantStagesMT200103AG.pdf
[15] 野菜栽培の作物ごとの収穫までに必要な積算温度の一覧 - ハベスタ
https://harvest-timer.com/temperature/
[16] 野菜の収穫時期を知る積算温度表 in 丹波篠山
https://weathernew.sasayama.jp/sekisan3/
[17] 台木品種が低温期における長ナス「筑陽」の果実肥大に及ぼす影響 - 農研機構
https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010791318.pdf
[18] 台木品種が低温期における長ナス「筑陽」の果実肥大に及ぼす影響 - Fukuoka Agricultural Research Center
https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010791318.pdf
[19] Eggplant - Virginia Tech
https://www.pubs.ext.vt.edu/content/dam/pubs_ext_vt_edu/spes/spes-686/SPES-686.pdf
[20] Manipulation of photoperiod and light intensity in low-temperature storage of eggplant plug seedlings
https://www.researchgate.net/publication/260224035_Manipulation_of_photoperiod_and_light_intensity_in_low-temperature_storage_of_eggplant_plug_seedlings
[21] Solanum melongena (Aubergine, Brinjal, Eggplant) - Plant Toolbox
https://plants.ces.ncsu.edu/plants/solanum-melongena/
まとめ
ナスの各成長ステージごとの積算温度（GDD）は、発芽～育苗では150～200 GDD（基準温度15°C）、栄養成長終了～開花まで約400 GDD、そして開花～収穫・果実肥大までにはさらに900～1,100 GDDが必要であることが、複数の日・英語資料により確認できた。実践的には、果実肥大に焦点を当てた積算温度管理が広く用いられている。現場では各自の圃場や栽培条件に合わせてGDD計算式を調整し、品種・気候特性を踏まえたうえで参考値として活用することが望ましい。