Skip to content

キュウリの各成長ステージ(発芽期、苗期、開花期、結実期)におけるNPK(窒素・リン・カリウム)吸収量(g/m²)の現状と推定方法

概要

キュウリ(Cucumis sativus L.)の各成長ステージ(発芽期、苗期、開花期、結実期)ごとに、窒素(N)、リン(P)、カリウム(K)の吸収量(g/m²)を明らかにするため、最新の日本語の一次学術資料および農業指導書の調査結果をまとめる。現状として、ステージごとの直接的な吸収量データは存在せず、全成長期間での累積吸収量が主に公開されている。そのため、推定方法や学術的に認められているモデルに重点を置き、キュウリ栽培の現場や研究でどのようにステージ別吸収量を推定しているかを詳述する。

1. キュウリのNPK吸収量に関する直接データの有無と傾向

1.1 ステージ別吸収量(g/m²)データの現状

  • 日本国内の主要な農業試験場や作物栽培指導書[1][2][3]、ジャーナル論文、農業普及資料いずれにおいても、「発芽期」「苗期」「開花期」「結実期」といった明確な生育区分ごとのNPK吸収量(g/m²)データは、公開されていない。
  • 日本では、キュウリのNPK吸収量は「全成長期間」で合計値として示され、「10aあたりkg」や「g/m²」等の単位で表記されているケースが大半である[1][2][3]。
  • 具体的な吸収パターンについては、「発芽~苗期」は吸収量が非常に少なく、開花・結実期に向けて急激に吸収量が増加するという傾向が示されている[1][2][3]。

1.2 全成長期間での吸収量基準値

  • キュウリの全成長期間(1作)でのNPK吸収量目安(日本、露地・施設平均):
    • 窒素(N):約20~33 kg/10a(2.0~3.3 g/m²)
    • リン酸(P2O5):約8~12 kg/10a(0.8~1.2 g/m²)
    • カリ(K2O):約20~47 kg/10a(2.0~4.7 g/m²)
  • 上記吸収量は、「土作りと施肥管理」(日本土壌協会)や各県の農業技術指導・肥培管理基準[1][2][3]で繰り返し引用されている。

2. ステージ別吸収量推定のためのアプローチ

2.1 生長曲線・バイオマス比に基づく推定

  • キュウリの養分吸収は、植物体の乾物重増加や葉数の増加とほぼ並行して進行する。各成長ステージごとの乾物重やバイオマス増加率などをもとに、全期間の吸収量を分割する方法が学術的に認められている[1][4][5]。
  • 例:高知県農業技術センターの研究では乾物重の増加曲線とNPK吸収曲線が高い相関を示し、各ステージへの配分推定の根拠としている[1]。

2.2 葉数増加による窒素吸収の推定式

  • 岩手県農業研究センター等では、葉数増加値に基づく窒素吸収量推定式を提案しており、実証研究でも高精度を示す[4][5]。
    • 式例:「N吸収量(g/m²/14日)=葉数増加(枚数/m²/14日)× 0.0441 + 2.189」
  • この方法は「苗期」以降の栽培管理や追肥計画の精密化に有効。

2.3 生育期間の時間配分法

  • 直接生育指標が得られない場合は、各成長期の経過日数や一般的な成長ステージの割合から全期間NPK吸収量を案分し、各期に配分する方法がある。目安としては、発芽・苗期:約5~15%、開花期:約20~30%、結実期:約55~70%程度の比率で分配する事例が多い[1][3]。

2.4 収穫・果実着果量に基づく推定

  • キュウリのような生殖成長型作物は、果実の着果・肥大・収穫時期に最も多くのNPKが吸収されるため、収穫量曲線や果実数を基準に吸収量を推定する方法も実用的である[1][2][3]。

3. 参考:ステージ別吸収量推定モデル(仮想例)

3.1 構成

仮に全成長期間N吸収量を3.0 g/m²、Pを1.0 g/m²、Kを4.0 g/m²とする場合、推定比率に基づいたステージ別配分例:

ステージ比率N (g/m²)P (g/m²)K (g/m²)
発芽期5%0.150.050.20
苗期10%0.300.100.40
開花期25%0.750.251.00
結実期60%1.800.602.40
合計100%3.01.04.0
  • 上記はあくまでも学術文献等で奨励されている配分モデル[1][3]の一例であり、実際は株密度、生育環境、仕立て・摘芯方法、栽培期間や収量に応じて大きな変動がある。
  • P(リン酸)は吸収効率が低く、ほぼ生育全体に渡って小量ずつ吸収される傾向があり、特定ステージに偏らない[3]。

4. 日本の農業指導現場における実践的運用

  • 日本の農業指導・普及現場では、「ステージ別吸収量の精緻な推定値」を求める場合、上記のようなバイオマス・葉数・収穫量・経過日数をベースとした分割や推定式(特に窒素)を活用し、必要に応じて実際の葉色診断や土壌検査・施肥計画へフィードバックを行うことが推奨されている[1][3][4][5]。
  • 特に窒素については、葉酸欠乏や過剰リスク回避のため、葉数指数などのリアルタイムな生育診断に基づく細分化施肥が実用化されている[4][5]。

5. 注意点および今後の留意事項

  • ステージごとのNPK吸収推定値は、品種・気象・栽培方式(水耕/土耕/露地/施設)・植付密度によって大きく変動する。
  • リン酸は土壌中で固定されやすく吸収効率が低いため、正確な吸収量評価は難易度が高い[3]。
  • 最新の現場対応方法としては、実際の生育診断および土壌/葉分析との併用が不可欠とされている。

まとめ

キュウリの発芽期、苗期、開花期、結実期ごとのNPK吸収量(g/m²)について、直接の一次データは日本国内で公表されていないものの、生育量・葉数・日数・収穫量等に基づく配分推定が学術・実務で広く採用され、特に窒素では精度の高い推定式も実用化されている。施肥や科学的評価を行う際は、全成長期間の吸収量データとこれらの分割モデルを組み合わせ、実際の圃場・栽培条件に応じて適宜調整していくことが推奨される。


Sources

[1] 多肥条件におけるハウスキュウリの生育および養分吸収について. Bulletin of the Kochi Prefectural Institute of Agriculture: https://meruka2.sakura.ne.jp/aid/data/農業と科学 1970.03月/1970年03月号_上杉郁夫_ハウス土壌の肯料濃度とキュウリの生育収量と養分吸収.pdf
[2] 「肥料施用学」BSI生物科学研究所 キュウリ: http://bsikagaku.jp/f-fertilization/cucumber.pdf
[3] 野菜の栽培特性に合わせた - 土づくりと施肥管理. 日本土壌協会ブックレット: https://www.japan-soil.net/BOOKLET/H23/H23_A4.pdf
[4] 半促成キュウリのかん水同時施肥栽培における 葉数をもとにした窒素吸収推定式の活用. Japanese Journal of Farm Work Research: https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsfwr1966/42/1/42_1_4/_pdf
[5] 平成29年度 岩手県農業研究センター試験研究成果書: https://www.pref.iwate.jp/agri/_res/projects/project_agri/_page_/002/004/221/h29shidou_24.pdf