Appearance
世界のトウモロコシ(とうもろこし)主要害虫と特徴的な被害症状の総覧
概要
トウモロコシ(玉蜀黍・コーン、Zea mays)は世界中で広く栽培されている重要な穀物ですが、様々な害虫の被害を受けています。これらの害虫は生息地域や栽培環境を問わず、世界共通で認識されるものから地域固有の重大害虫まで幅広く存在します。本報告では、世界のトウモロコシに重大な影響を及ぼす主要害虫について、学名・生物学的特徴・代表的な被害症状を含めて詳述し、国内外および日本語情報も含む確かな文献を基に解説します。
1. 世界的に広く認識されている主要トウモロコシ害虫
1.1 アワノメイガ(アジア系トウモロコシヨトウ):Ostrinia furnacalis
- 分布・重要性: アジアならびに日本での最重要害虫。欧米ではヨーロッパトウモロコシヨトウ(Ostrinia nubilalis)が同じ機能を持つ。
- 生物学的特徴:
- 幼虫は葉や雄花に卵を産み付け、孵化後は茎や穂軸に食入。
- 蛹は茎内部や土壌で形成。
- 被害症状:
- 茎や果実内部への穿孔被害(ボーリング)で、茎の折損・倒伏・実の変形・収量減少。
- 食入部に黄褐色のフラス(糞・虫屑)が溜まり、被害が進行すると茎が簡単に折れやすくなる。
- 被害が雄花発生期~授粉期に多い。[1][2][3][4][5][6][7][8]
1.2 ヨーロッパトウモロコシヨトウ:Ostrinia nubilalis
- 分布・重要性: ヨーロッパ、アメリカなど温帯域で広範な主要害虫。
- 生物学的特徴:
- 成虫は夜行性、夏季にピーク。
- 幼虫が茎・雌穂内部へ穿孔し、隠蔽性が高い。
- 被害症状:
- 茎や穂軸が空洞化・折損することで倒伏や収量・品質低下。
- 穂への食入で商品価値が下がる。[7][8][9][10]
1.3 フォールアーミーワーム(ツマジロクサヨトウ):Spodoptera frugiperda
- 分布・重要性: 南北アメリカ原産だが、2016年以降アフリカやアジア(日本含む)全域へ拡大した世界最大級の侵入害虫。
- 生物学的特徴:
- 幼虫は多食性で80種以上の作物を加害。
- 成虫は強い飛翔力を持ち、短期間で広範囲に蔓延。
- 被害症状:
- 幼虫による若い葉の「窓食い」(葉脈だけを残して不規則な大穴があく)。
- 幼苗期の芯葉(ワール)食害、“弾丸穴”と言われる裂孔が連続する。
- 糞や食痕が目立ち、被害レベルが高いと植物の芯枯れや株の死にも至る。
- 地域によって17~80%もの甚大な減収。[4][5][6][7][9][11][12][13][14]
1.4 トウモロコシヨトウ類(タバコガ・オオタバコガ):Helicoverpa zea / Helicoverpa armigera
- 分布・重要性: 北米(H. zea)、ユーラシア・オーストラリア・日本(H. armigera)。
- 生物学的特徴:
- 幼虫は花糸・絹糸(シルク)・穂を食害し、被害部から実へ移行する。
- 高い繁殖能と薬剤抵抗性。
- 被害症状:
- 雌穂・絹糸部への食害により未受精や実の変形・商品価値低下。
- 糞の堆積、穴開き果粒、二次感染症の誘発。[6][7][9][12][13][14]
1.5 スジバネキリガ類(カットワーム類):Agrotis spp.(ネキリムシ、ヨトウムシ)、Mythimna separata(シロイチモジヨトウ)
- 生物学的特徴: 夜間活動し、幼苗期に強い被害。地表下や表面で茎を食い切る。
- 被害症状:
- 幼苗の茎基部食害による立ち枯れ・株減少、夜間の突然死。
- 食入部に乾いた嚙み跡や切断。[5][6][7][9][12][13][14]
1.6 トウモロコシヒゲナガゾウムシ(トウモロコシネグサレセンチュウ)、トウモロコシハムシ類(コウチュウ類):Diabrotica spp.
- 分布・重要性: 北米を中心とした根部加害の最大害虫。
- 生物学的特徴:
- 幼虫は根に食入、成虫は葉や雌穂に移動し加害。
- 被害症状:
- 根の食害で生育不良・倒伏・激しい場合は全枯死へ。
- 成虫は葉に穴、受粉障害。[7][9][10]
1.7 イネアカムシ類(スティンガムシ、ヨコバイ類)・ミナミカメムシ類(カメムシ類)
- 分布・重要性: 日本含むアジア一帯。
- 生物学的特徴:
- 口針で吸汁、吸汁でウイルス媒介。
- 被害症状:
- 葉・実の変色や奇形、変形粒、萎縮。
- 病気(モザイクウイルス等)の伝搬。[12][14]
1.8 アブラムシ類(Aphididae)
- 生物学的特徴: 群棲性。葉の裏や茎に集団。
- 被害症状:
- 茎葉の萎縮・生育阻害・葉のカールや黄化。
- ウイルス病の伝染源(モザイクウイルス等)として被害拡大。[6][7][12][14]
1.9 クモ類/ダニ類(ミカンキイロアザミウマ、ナミウズムシ類、ハダニ類など):Tetranychus urticae, Oligonychus pratensis
- 分布・重要性: 乾燥・高温の地域で多発。
- 被害症状:
- 葉の銀白化(葉面が白っぽくなる)、枯れ上がり、葉裏に糸や虫体が見える。[6][7][9]
1.10 地域特有の重要害虫
- チュウヨウヨトウ:Mythimna separata(アジア・日本で増加傾向)
- チャバネアオカメムシ:Nezara viridula(ニュージーランド他)
- トウモロコシオガリマダラゾウムシ:Chaetocnema pulicaria(インド等)
- アルゼンチンステムウィービル:Argentine Stem Weevil(ニュージーランド)
- ガガンボ/ヤスデ/ワイヤーワーム類(テッポウムシ類):発芽初期の根・茎食害
2. 主要害虫の特徴的被害症状
| 害虫 | 主な被害部位 | 具体的被害症状 |
|---|---|---|
| アワノメイガ | 茎・雌穂・雄花 | 茎内部の穿孔、折損、フラスの堆積、果粒変形 |
| ヨーロッパトウモロコシヨトウ | 茎・穂・果実 | 穂や茎の空洞化、倒伏、粒の変色・品質低下 |
| フォールアーミーワーム | 芽・若葉・芯葉 | 葉の大穴、ワール部食害、芯枯れ、糞の堆積 |
| タバコガ・オオタバコガ | 雌穂・花糸・シルク | 絹糸や粒の食害、穴開き粒、二次感染誘発 |
| カットワーム類 | 茎基部・幼苗 | 夜間茎の切断や嚙み跡、立ち枯れ |
| トウモロコシハムシ類 | 根 | 根の食害で生育低下・倒伏、成虫は葉に穴 |
| カメムシ類 | 実・葉 | 吸汁による実の変色・萎縮、異常粒、病気伝搬 |
| アブラムシ類 | 葉・茎 | 群棲による葉の変色・萎縮、ウイルス伝播 |
| ダニ類 | 葉 | 銀白化、枯死 |
| 地域特有種 | 様々 | 新芽食害・苗の壊死など |
3. 管理・対策の現状と課題
- IPM(総合的病害虫管理)の推奨:生物的防除・抵抗性品種の導入・適正な薬剤散布などの統合的手法が基本。過剰な化学防除は益虫や二次被害を招くことがあり、抵抗性害虫の発生も大きな課題となっている。[6][7]
- 抵抗性品種と遺伝子組換え技術:特にヨーロッパトウモロコシヨトウやフォールアーミーワームなど、遺伝子組換え(Btコーン等)への抵抗株の出現が国際的に問題視されている。[1][7]
- 早期発見と耕種的防除:作残や被害部の早期除去、播種や播種時期調整なども重要である。[2][6][10][12]
4. 地域別の特記事項
- アジア・日本: アワノメイガ、オオタバコガ、ヨトウムシ、カメムシ類が主要。近年フォールアーミーワームも急増中。[10][11][12][13][14]
- アフリカ: African maize stalk borer(Busseola fusca)やChilo partellusなどが深刻で、被害率が極めて高い。[4][7]
- アメリカ・欧州: ヨーロッパトウモロコシヨトウとトウモロコシハムシが主要。[1][7][9]
- オセアニア: カットワームやアルゼンチンステムウィービルが代表的。[9]
- インド亜大陸: チャバネマダラゾウムシやChilo partellusが重大な地位。
5. まとめ
世界規模で認識されるトウモロコシの主要害虫は、地域や栽培方式ごとに若干異なるものの、アワノメイガ類、アーミーワーム類、トウモロコシハムシ類、カットワーム類、アブラムシ・カメムシ類などが普遍的な被害源となっています。これらは茎・葉・根・雌穂など様々な部位へ特徴的な損傷を与え、時に致命的な被害へ発展します。管理には多角的な対策と適切な監視、技術の導入が不可欠です。
Sources
- Corn Insects and Crop Genetics Research - Project : USDA ARS
- 4 pests and diseases of maize - PlantwisePlus Blog
- review of the current global situation of harmful and useful insect ... (CABI)
- Studies on diversity of insect pests and their arthropods predator in ... (entomologyjournals.com)
- Maize insect pest management - northern grains region (Australia)
- How to identify and manage major maize pests - BioProtection Portal
- Pests and Diseases | Growing Maize (NZ)
- Minorasu 【とうもろこしの害虫対策】害虫の種類と駆除方法、適用農薬を解説 | minorasu(ミノラス)
- Earth ガーデニングQ&A|アースガーデン ~園芸用品~|アース製薬株式会社
- Sanchoku Prime トウモロコシの害虫対策!知っておくべきトウモロコシの害虫6種まとめ | 産直プライム.labブログ
- YMM Farm トウモロコシの病気と害虫|症状の特徴と防除方法 | やまむファーム
- PlantwisePlus Blog “4 pests and diseases of maize” (補足英語・被害症状)
- トウモロコシ栽培Q&A|アースガーデン ~園芸用品~|アース製薬株式会社
- YMM Farm トウモロコシの病気と害虫