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とうもろこし(トウモロコシ)の各成長ステージ別 積算温度(GDD)要件の総合解説

概要

とうもろこし(トウモロコシ)は生育に必要な温度の累積量(GDD: 積算温度)に基づいて生育進行が管理されます。GDDは主に発芽から始まり、栄養生長、開花(出穂・受粉)、登熟・成熟に至るまで、各成長ステージで特有のGDD要件があります。この積算温度を知ることで播種・収穫適期の判定や、品種選択、栽培地適応が精度高く行えます。本報告では国内外の学術文献・農業普及機関のデータ(優先的に日本語情報)をもとに、各成長ステージごとのGDD要件、ベース温度の共通概念、品種や環境の違いによるバリエーションについて詳述します。

積算温度(GDD)の定義と計算

多くの場合、とうもろこしのGDDは基準温度“10°C”(ベース温度、base temperature)で算出されます。日々のGDDは次のように算出します:

  • GDD = ((日最高気温+日最低気温)/2) - 10°C
    ※日最高気温は30°C、日最低気温は10°Cで上限・下限調整される場合が多い[1][2]。

各成長ステージごとの積算温度(GDD)

1. 発芽(Emergence/Germination)

  • 積算温度要件: 120~175°C(単純積算)または90~120 GDD(10°Cベース)
  • 国内代表値: 北海道など寒冷地でも120~150°C付近(単純加算)で発芽・出芽に達する
  • 海外値(10°CベースGDD)でも90~120GDD程度
  • 要点: 播種時の地温14°C以上、最適発芽温度25~30°C、最低10°C[3][4][5]
  • 補足: 発芽失敗リスクは地温・土壌水分など環境要因に大きく左右される

2. 栄養成長(Vegetative Growth)

  • 積算温度要件(累積):
    • 発芽以降、開花(出穂・シルキング)まで、主流品種では1,100〜1,400°C(単純GDD、播種→開花)または約1,200〜1,500GDD(10°Cベース)
  • 葉齢や葉期別:
    • V1~V6(第1~第6葉期)は各葉あたり約82〜85GDD(初期)→以後各葉追加で50GDD程度加算
  • 要点: 葉数や中間生長を細分化したGDDは米国大学等資料が豊富で、開花(シルキング)までに1,200~1,500GDDが必要[1][6]。

3. 開花・受粉(出穂・シルキング、Flowering)

  • 積算温度到達点: 出穂・糸状花(シルキング)は、播種から1,200~1,400GDD前後(日本)、1,400~1,500GDD前後(米国)
  • 留意事項: この時期は温度ストレスと水分条件が高収量性や登熟スタートに大きく影響[6][7][8]。

4. 登熟・成熟(Grain Fill/Maturity)

  • 登熟~黄熟期:
    • シルキング以降、800〜900GDD追加(約2週間)で黄熟期(30%乾物収穫、サイレージ用)
  • 生理的完熟(ブラックレイヤー到達, R6):
    • シルキング~完熟までで総計約800〜900GDD(播種から2,000〜2,300GDD)(日本のRM85~95品種)
    • 米国デントコーン主流品種で2,700~3,100GDD[1][6][9]
  • 早生品種:
    • 簡易積算温度2,000~2,100°C前後で成熟期に達する(北海道・高緯度地向け)
  • 要点: 完熟マーク(ブラックレイヤー)は播種日によらず、シルキングからのGDD加算で高精度予想が可能[1][8]。

品種・環境によるGDDの違いと考慮事項

品種・早晩性(RM: Relative Maturity)

  • 早生品種: 必要なGDDは晩生より100~130°C(GDD)程度低く、寒冷地適応性(北海道RM75~85=播種から黄熟2000°C前後)
  • 晩生品種: GDD総量が多く、高収量型だが低温地・冷害リスクには注意
  • 品種選定: 栽培地の積算温度達成見込みとRM値(相対成熟日数)を参照[1][5][9][10]。

環境要因

  • 地域(緯度、標高)、気象: 年平均気温や生育期の気温推移で同一品種でもステージ到達までのGDD累計が変動
  • 作型: 一期作・二期作でGDD蓄積効率が異なり、西日本温暖地では二期作導入の報告例も[5][8]。

管理・実務的応用

  • GDDの現地観測: 気象データ+播種/シルキング日の記録から現地GDDを算出し、黄熟期・収穫適期の正確設定が実現
  • 農業普及技術: サナテックシードやパイオニア等が積算温度計算プログラムを無料提供[1][7]。

各成長ステージのGDDをまとめた一覧表(代表値)

成長ステージ積算温度(日本, 単純GDD, 10°Cベース)積算温度(海外, 10°Cベース)説明・備考
発芽・出芽(Emergence)120〜15090〜120地温14°C以上、5〜7日後
栄養成長(葉生長, VE〜VT)1,000〜1,2001,100〜1,400葉齢ごとに約80GDD、以降50GDD計算
開花・出穂(Flowering)1,200〜1,4001,400〜1,500シルキング到達時点
登熟・成熟(Grain Fill/Mat.)2,000〜2,300(完熟)2,700〜3,100(完熟)シルキング~熟期800〜900GDD追加

まとめ

とうもろこしの生育管理や適期収穫には、各成長ステージごとの積算温度(GDD)を正しく把握・観測することが不可欠です。日本国内の主流栽培地や標準的な品種、海外の学術値とも整合性が高く、平均ベース温度10°Cでの管理が基本原則となっています。品種や栽培地域の違いによるGDD要件の違いを踏まえて適切な品種選定・生育進行のモニタリングを行うことで、安定した生産と収量向上への貢献が可能となります。


Sources

[1] 生育期積算温度 | 子実コーンNAVI | サナテックシード株式会社 : https://corngrain.p-e-s.co.jp/magazine/生育期積算温度/
[2] [PDF] トウモロコシの生長と発達 - アメリカ穀物協会 : https://grainsjp.org/cms/wp-content/uploads/dlm_uploads/d75c7977ea1aab00b87981d147385e3d.pdf
[3] [PDF] パイオニアトウモロコシ用積算温度計算プログラムについて : http://phj-pioneer.com/pdf/how_to_use_2024.pdf
[4] [PDF] 北海道農研プロジェクト研究成果シリーズ No.9 : https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/archive/files/harcproject9.pdf
[5] [PDF] 極早生品種の使い方 トウモロコシの収穫適期とは : http://webbook.hokuren.or.jp/bookdata/00000325/origin/page-0005.pdf
[6] [PDF] パイオニア トウモロコシ用積算温度計算プログラムについて 補足説明 : http://www.phj-pioneer.com/pdf/how_to_use.pdf
[7] Corn Growth Stages and GDU Requirements : https://www.corn-states.com/app/uploads/2018/07/corn-growth-stages-and-gdu-requirements.pdf
[8] [PDF] 飼料用とうもろこしの二期作栽培技術、愛知県農業総合試験場 : https://www.pref.aichi.jp/uploaded/attachment/329807.pdf
[9] Growing Degree Days (GDD) - NDAWN : https://ndawn.ndsu.nodak.edu/help-corn-growing-degree-days.html
[10] Growing Season Characteristics and Requirements in the Corn Belt - Purdue Extension : https://www.extension.purdue.edu/extmedia/nch/nch-40.html