白菜（Brassica rapa）の各成長ステージにおけるNPK（窒素・リン・カリウム）吸収量（g/m²）に関する総合調査報告

1. はじめに

白菜（Brassica rapa）は日本をはじめアジア圏で重要な葉菜類であり、高い収量を維持するためには各成長ステージごとの適切な養分供給が不可欠である。本報告では、白菜の主要成長ステージ（苗期、ロゼット期、巻始・折畳期、結球期、開花期）におけるNPK（窒素・リン・カリウム）吸収量（g/m²）について、学術文献や農業技術資料、作物モデル（WOFOST）の実測・推定結果をもとに包括的にまとめる。

2. 白菜の成長ステージと養分吸収の特徴

2.1 成長ステージの区分

主要な成長ステージは下記の5つに整理される。

• 苗期（発芽〜苗立ち、展開葉5枚程度まで）
• ロゼット期（外葉が水平に展開し株元が充実していく時期）
• 巻始・折畳期（内葉の立ち上がりおよび結球に向けた初期形態変化）
• 結球期（中心部が密集化し結球部が肥大する）
• 開花期（花芽分化〜開花、種子形成）

各ステージの長さは品種や栽培地域、播種時期により差があるが、露地標準栽培での全成長期間は一般的に80〜100日である[1][2][3][4][5]。

2.2 養分吸収の時期分布

白菜の養分吸収は、カリウムが最も多く、次いで窒素、リン酸の順である。「養分吸収のピークはロゼット期〜巻始・結球初期」にあり、栄養生長から生殖成長（開花）にかけて吸収速度が減少する傾向にある[6][7][8]。

3. 各ステージごとのNPK吸収量（g/m²）に関する実測・推定データ

3.1 直接的な実測データの可用性

日本語および国際的な一次文献から「各成長ステージのN, P, K吸収量（g/m²）」の直接測定値は非常に限られており、大半は「全成長期間合計の吸収量」と「各時期での吸収比率（%）」を示す形となっている[6][8][9][10]。そのため、推定法が標準的に用いられている。

3.2 推定手法：全体吸収量と成長曲線による段階別配分

農研機構、都道府県農業試験場、学術論文の多くで下記のような方法が用いられている[6][8][9]。

• 吸収量総計（例：N＝30〜35g/m²、P=6〜7g/m²、K=40〜45g/m²など：収量目安4〜5kg/m²換算[10]）
• 成長ステージ毎の吸収比率（%分配）を適用
• 比率例（国産標準・モデル出力[8][9][10]）
  • 苗期：10〜15%
  • ロゼット期：30〜35%
  • 巻始・折畳期：25〜30%
  • 結球期：15〜20%
  • 開花期：5〜10%

WOFOSTモデルによる最新のバリデーション結果でも、同様の曲線（略S字状）が観察されている[9][11]。この分配比による推定は白菜のみならず、キャベツ・ブロッコリー等アブラナ科野菜で一般的。

3.3 具体的な吸収量（推定値）

代表例：標準的な露地白菜（最終収量4〜5kg/m²）を想定。

ステージ	吸収比率（目安）	N吸収量（g/m²）	P吸収量（g/m²）	K吸収量（g/m²）
苗期	10〜15%	3〜5	0.6〜1.0	4〜7
ロゼット期	30〜35%	10〜12	2.0〜2.5	12〜16
巻始・折畳期	25〜30%	8〜10	1.5〜2.0	10〜13
結球期	15〜20%	5〜7	1.0〜1.5	6〜9
開花期	5〜10%	2〜4	0.3〜0.7	2〜4

※全吸収量をN=33g/m²、P=7g/m²、K=44g/m²とした場合で推計。 ※開花期は一般に食用部の出荷後に該当するため、実際の施肥設計で重要となるのは苗期～結球期までである[8][10][11]。

3.4 エビデンスおよびモデル検証

• WOFOSTモデル適用による推定・実測値に関する検証では、吸収推定誤差（rRMSE）は0.15と高精度。ステージ毎の吸収パターン曲線も、収量・気象との相関検証をクリアしている[9][11]。
• 日本土壌協会や農研機構などの技術基準、愛媛県等の栽培指針マニュアルでも同様の推定比率を採用[6][8][10]。

4. NPK吸収パターンの利用上の注意と補足

4.1 地域・品種・作期による正確な調整

• 品種や作期、栽培技術・気象差、施肥体系によって吸収総量・各比率には若干の変動がある。
• 地方自治体や農協が公表する実証データ・指導指針で補正を行うことが望ましい[6][8][10]。

4.2 肥料吸収効率との関係

• 実際の施肥量は肥料吸収効率（N：30-40%、P：10%、K：40-50%程度）を考慮して判断[6]。
• したがって吸収量＝投入量とはならない。吸収表またはモデル値は「実際の作物体中に取り込まれる量」である点に留意が必要。

4.3 食用部と非食用部の区別

• 各成長ステージでの吸収は、必ずしもすべてが可食部（結球部）に蓄積するわけではなく、根・外葉などにも分配される。
• 多くの技術資料では「全作物体吸収量」を対象とする[8][10]。

5. 結論

現時点での主要な学術・技術文献および最新モデル出力に基づくと、白菜のNPK吸収量は成長ステージごとにおおよそ以下の比率と量で推定できる。ステージ別実測データが少ない場合も、全体吸収量に対し定評ある分配比率（％）を適用する論理的推定法が農学的に広く認められており、最新WOFOSTモデルによる計算値も現場での検証を経て信頼できる。

このため、各成長ステージごとのNPK吸収量（g/m²）は、「全体吸収量」×「各ステージ比率」により合理的に求められる。栽培規模や目標収量ごとに、上記の代表値を基準に地域実情に応じた調整を行うのが推奨される。

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Sources

[1] Response of nitrogen and phosphorus levels on the growth and yield of Chinese cabbage [Brassica rapa (L.) var. Perkinensis]: https://www.scitechnol.com/abstract/response-of-nitrogen-and-phosphorus-levels-on-the-growth-and-yield-of-chinese-cabbage-brassica-rapa-l-var-perkinensis-2902.html
[2] Response of nitrogen and phosphorus levels on the growth and yield of Chinese cabbage: https://www.researchgate.net/publication/215568226_Response_of_nitrogen_and_phosphorus_levels_on_the_growth_and_yield_of_Chinese_cabbage_Brassica_rapa_L_var_pekinensis_in_the_gangetic_plains_of_West_Bengal
[3] The Effects of Nitrogen and Potassium on the Growth of Brassica rapa: https://corescholar.libraries.wright.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1054&context=biw
[4] Nutrient uptake, growth, and physiology of Chinese cabbage (Brassica rapa L. ssp. pekinensis) varieties under NaCl stress: https://www.researchgate.net/publication/381634433_Nutrient_uptake_growth_and_physiology_of_Chinese_cabbage_Brassica_rapa_L_ssp_pekinensis_varieties_under_NaCl_stress_1
[5] Nutrient Uptake and Yield of Chinese Cabbage (Brassica rapa L.): https://www.mdpi.com/2311-7524/8/3/196
[6] 野菜の栽培特性に合わせた - 土づくりと施肥管理 - 日本土壌協会: https://www.japan-soil.net/BOOKLET/H23/H23_A4.pdf
[7] 4．作物の栄養生理と養分吸収: https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/hozen_type/h_sehi_kizyun/pdf/gum12.pdf
[8] 軽量野菜栽培マニュアル （改訂版） - 愛媛県: https://www.pref.ehime.jp/uploaded/attachment/26297.pdf
[9] Rethinking the WOFOST model to simulate growth and development of Chinese cabbage (Brassica rapa L. ssp. Pekinensis): https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0308521X25002082
[10] 我が国の主要露地野菜生産システム同定の試み - J-Stage: https://www.jstage.jst.go.jp/article/cib/20/0/20_J-20-047/_pdf/-char/ja
[11] Rethinking the WOFOST model to simulate growth and development of Chinese cabbage (Brassica rapa L. ssp. Pekinensis) - Nutrient uptake simulation: https://ideas.repec.org/a/eee/agisys/v230y2025ics0308521x25002082.html