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世界の人参（Daucus carota）に影響する主要害虫の総覧と特徴的被害症状 ​

概要 ​

人参（Daucus carota）は世界中で広く栽培されている重要な根菜ですが、さまざまな害虫の食害により品質低下や収量減が問題となっています。本報告では、世界的に主要とされる人参害虫について、その分類、生物的・生態的特徴、地域ごとの分布、代表的被害症状、およびグローバルまたは地域的な懸念事項を整理します。ここで挙げる害虫は、最新の学術論文や公的農業機関の文献（2023-2024年）による、広い地域で認識されているものです。

1. ニンジンバエ（Carrot Root Fly/Carrot Rust Fly, Psila rosae） ​

生物学的・生態的特徴 ​

  • 学名: Psila rosae
  • 幼虫は根の近く、主に地表付近に卵を産み付け、孵化した幼虫が主根を食害。
  • 通常は年2回発生（温暖年は3回）、発生時期やサイクルは気温と密接に関係[1][2][3][4]。

地理的分布 ​

  • 温帯地域を中心に、世界各地のニンジン産地に分布。
  • 特に欧州、イギリス、北米で深刻[1][2][3][4]。

被害症状 ​

  • 幼虫が根にトンネルをあけることで「さび」や変形、二股根を誘発。
  • 種まき直後の苗立ち枯れや、根の変色・腐敗も発生。
  • 50％以上の減収となることも[1][2][3][4]。

地域的特徴 ​

  • 被害予測やモニタリング体制が先進国で発達しているが、世界的に最重要害虫[1][2][3][4]。

2. ニンジンゾウムシ（Carrot Weevil, Listronotus oregonensis） ​

生物学的・生態的特徴 ​

  • 学名: Listronotus oregonensis
  • 成虫越冬、春に出現し葉柄に産卵。
  • 幼虫は根茎部のトンネルを掘り、1年1世代[5][3]。

地理的分布 ​

  • 主に北米（カナダ、米国）で重要害虫。
  • 他地域では大規模発生例は限定的[5][3]。

被害症状 ​

  • 幼虫による根茎部のトンネル、外観のキズや腐敗誘発。
  • 重度発生時は壊滅的な減収[5][3]。

地域的特徴 ​

  • 北米北東部、有機土壌地帯で特に問題[5][3]。

3. コガネムシ幼虫（Wireworms, Elateridae科） ​

生物学的・生態的特徴 ​

  • 学名: Elateridae科（複数種）
  • 幼虫は土壌中に数年間生息、根の食害を継続[6]。

地理的分布 ​

  • ニンジン栽培地域全域、特に砂質・草地跡地で多発[6]。

被害症状 ​

  • 根部への穴あき、苗立ち枯れ、外観劣化。
  • 商品価値大幅低下[6]。

4. アブラムシ類（Aphids） ​

代表的種類 ​

  • シラカバニンジンアブラムシ（Cavariella aegopodii）
  • モモアカアブラムシ（Myzus persicae）
  • ニンジン根アブラムシ（Pemphigus phenax）

生物学的・生態的特徴 ​

  • いずれも寄主植物間を移動、複数世代で大発生が可能。
  • 寄生先には柳などがある[1][2][4]。

地理的分布 ​

  • 世界中で普遍的に発生[1][2][4]。

被害症状 ​

  • 直接の汁吸引による萎縮は軽微。
  • 重要なのはウイルス媒介能力（ニンジン赤葉ウイルスや各種イエロウィルス等）。
  • 一部圃場で50％以上の発病・減収を引き起こす[1][2][4]。

5. ヨコバイ類（Leafhoppers, Macrosteles属他） ​

代表的種類 ​

  • フォーラインドヨコバイ（Macrosteles quadrilineatus）
  • アスターヨコバイ（Macrosteles fascifrons）

生物学的・生態的特徴 ​

  • 多世代・移動性が高い。
  • 吸汁自体の被害は軽微だが、アスターヤローズ病原体媒介が重大[2][3][4][7]。

地理的分布 ​

  • 北米、欧州、アジア等で分布[2][3][4][7]。

被害症状 ​

  • アスターヤローズ（青枯病）による萎縮、葉変色、根の短小化。
  • 地域により被害深刻度は変化[2][3][4][7]。

6. 根コバエ・ミバエ類（Root Maggots, Leafminers） ​

代表的種類 ​

  • Melanagromyza spp.
  • Liriomyza trifolii（アメリカミナミキバガ）
  • Napomyza carotae（ニンジンミバエ）

生物学的・生態的特徴 ​

  • 飛翔性成虫が葉・根に産卵し、幼虫がミナ系食害や根へのトンネルを形成。
  • 複数世代発生[8][9][10][4]。

地理的分布 ​

  • 欧州、インド、北米などで報告。特にインド等アジアでは存在感増[8][9][10][4]。

被害症状 ​

  • 根部トンネル、葉の食痕やミナ跡による光合成障害。
  • 品質劣化や収量減[8][9][10][4]。

7. カットワーム・アーミーワーム類（Cutworms, Armyworms） ​

代表的種類 ​

  • カブラヤガ（Agrotis segetum）
  • トウモロコシアワヨトウ（Mythimna unipuncta）

生物学的・生態的特徴 ​

  • 夜行性の幼虫が地際で地上部を食害。
  • 有機質多い土壌で発生多[7][6]。

地理的分布 ​

  • 世界中で生息[7][6]。

被害症状 ​

  • 苗の切断・立ち枯れ、葉の欠損など[7][6]。

8. ミナミキバガ・ミナミミミズ類（Mirid Bugs） ​

代表的種類 ​

  • オルトプス・カンペストリス（Orthops campestris）
  • テイラーリグス・アピカリス（Taylorilygus apicalis）

生物学的・生態的特徴 ​

  • 花・新葉吸汁、急速な個体数増加が可能[1][10]。

地理的分布 ​

  • 欧州やインドで顕著、他地域でも発生報告[1][10]。

被害症状 ​

  • 蕾や若葉の変形、枯死、発育障害[1][10]。

9. その他の地域的または重要害虫 ​

  • ノミハムシ（Phyllotreta spp.）、セロリバエ（Euleia heraclei）、各種ハナアブ、ミナミキバガ、セジロアブラムシなど[11][4][5][6][7]。
  • インドや東南アジアでは新興の葉掘りバエ・ミバエ（Liriomyza trifolii、Melanagromyza属）が重要経済害虫化[9][10]。

10. 各害虫による被害と管理の要点 ​

  • ほとんどの害虫被害は直接的減収だけでなく、品質劣化や2次感染（カビ、ウイルス等）のリスクを高める[1][2][4][5][7]。
  • 地域・気候変動・輪作状況によって発生構造は変動。
  • 管理には粘着トラップや予報利用、耕種的防除・防虫ネットも重要。
  • 化学防除剤については世界的な使用規制強化傾向にあるため、IPM（総合防除）や天敵利用が拡大中[1][2][4][7][5][6][7]。

まとめ ​

世界的に見ると、人参への重大な害虫は特定のグループに集中しています。特に「ニンジンバエ」「ニンジンゾウムシ」「アブラムシ類」「ヨコバイ類」「根・葉ミバエ類」などは、ほぼ全地域で重要性が高く、地域によっては被害レベル・主要種がやや異なります。今後は温暖化・作付体系の変化により、被害害虫の分布や発生態様にも変化が現れうるため、継続的なモニタリングと柔軟な防除体制が不可欠です。

Sources ​

[1] Pest insects infesting carrot and other Apiaceous crops - NET: https://projectblue.blob.core.windows.net/media/Default/Imported Publication Docs/Pest insects infesting carrot and other apiaceous crops.pdf
[2] Carrot September 2024 - UC IPM: https://ipm.ucanr.edu/pdf/pmg/pmgcarrot.pdf
[3] Curculionidae) damage and foliar insect pest assemblages in carrot: https://academic.oup.com/jee/article/116/6/2085/7325875
[4] Daucus carota (carrot) | CABI Compendium: https://www.cabidigitallibrary.org/doi/full/10.1079/cabicompendium.18018
[5] Commercial Production and Management of Carrots: https://fieldreport.caes.uga.edu/publications/B1175/commercial-production-and-management-of-carrots/
[6] Unveiling the Insect Spectrum of Carrot (L.) Daucus carota Agriculture: https://www.researchgate.net/publication/389086226_Unveiling_the_Insect_Spectrum_of_Carrot_L_Daucus_carota_Agriculture_Study_from_Eastern_Dry_Zone_of_Karnataka
[7] National Carrot Day 2024: Carrots and Insects - University of Warwick: https://warwick.ac.uk/fac/sci/lifesci/wcc/wccblogs/ukcarrotday2024/
[8] Incidence of Insect Pests of Carrot, Daucus carota L. and Natural Enemies: https://scispace.com/pdf/incidence-of-insect-pests-of-carrot-daucus-carota-l-and-30h5ngai7s.pdf
[9] Integrated pest management approaches for two major carrot pests: https://jcea.agr.hr/en/issues/article/3380
[10] Unveiling the Insect Spectrum of Carrot (L.) Daucus carota in Eastern Karnataka, India: https://indianecologicalsociety.com/wp-content/themes/ecology/volume_pdfs/1739414637.pdf
[11] Recognise major pests and diseases in carrots - Semenco: https://www.semenco.se/Content/Images/uploaded/PDF/Booklet diseases on carrot.pdf