世界における玉ねぎ（Allium cepa）の主要害虫と被害症状の総覧

概要

玉ねぎ（Allium cepa）は、世界中で広く栽培されている重要な野菜作物であり、さまざまな害虫による経済的被害が報告されています。これらの害虫は栽培環境や地域を問わず被害を与え、その防除は安定生産に不可欠です。本稿では、地域や栽培環境（露地・施設、慣行・有機等）を問わず世界的に認識されている主な玉ねぎの害虫について、その生物学的特徴、被害症状、同定のための視覚的特徴、ならびに地域・気候・栽培システムに応じた発生傾向や被害の違いについて詳述します。

主要な世界的玉ねぎ害虫

1. ネギアザミウマ（Onion Thrips, Thrips tabaci）

生物学的特徴

• 学名：Thrips tabaci Lindeman（アザミウマ目：アザミウマ科）
• 世界的に分布するきわめて多食性の害虫で、玉ねぎ以外にもニンニク、キャベツ、綿花、トマトなど多くの作物に加害します。
• 成虫は植物残渣などで越冬し、年に5～8世代（気温により変動）発生。卵は葉組織内に単独で産み付け、幼虫・成虫ともに葉の汁を吸います。
• 雌のみで単為生殖（無受精卵生存）可能で、最適条件下では爆発的に増殖します。[1][2][3][4][5]

被害症状と視覚的同定

• 葉に銀白色～白色の斑点・筋が現れ、進行すると葉がねじれたり縮れたりします。重度被害では葉先から枯死し、極端な場合は球の形成や結実が阻害されます。
• 成虫は細長く、体長約1mm、淡黄色～褐色で触角と翅が縁毛状。幼虫は白色～黄緑色で赤い目が特徴です。
• 主な被害：光合成阻害、生育阻害、収量・品質低下。[1][2][4]

地域・気候・栽培システムによる傾向

• インド、ウズベキスタン、カナダ、アメリカ、ヨーロッパをはじめ殆どの産地で最優占害虫とされます。特に乾燥・温暖な気象条件下で発生が多発します。
• 近年の気候変動でロシア、北欧など新規地域での発生予測もあり、一部地域では温度上昇に伴い発生地域が拡大しています。[3][6][7]
• 有機栽培や化学農薬耐性（ピレスロイド剤等）により防除難易度が高いケースも多く報告されています。[4][8]

2. タマネギバエ類（Onion Maggot: Delia antiqua, ツマグロバエ: Delia platura）

生物学的特徴

• 主な種：Delia antiqua（タマネギバエ）、Delia platura（タネバエ）、いずれもハエ目イエバエ科に属します。
• 玉ねぎをはじめネギ属全般に寄生。土壌中で蛹越冬し、産地によって年に3世代発生。成虫は5～7月に多く出現し、根際に卵を産み付けます。[3][4][5][7]
• 幼虫（ウジ虫）は白色、頭部なし、胴幅約1mm、全長最大8mm。[7]

被害症状と視覚的同定

• 幼虫が根や鱗茎内を穿孔し食害。苗や若株では葉が黄化し萎れ、しおれて倒伏、枯死します。球内部に明瞭な穿孔、トンネル、腐敗、水浸状変色が見られるのが特徴です。
• ほとんどの場合、発芽直後や苗期の欠株・立ち枯れ、また腐敗病の2次侵入が続発します。
• 成虫は黒色で中型のハエ。卵は白色細長く根元に群れで生み付けられます。[4][5][7]

地域・気候・栽培システムによる傾向

• 北米（カナダ、アメリカ北部）、ヨーロッパ、冷涼・湿潤な土壌条件で頻発。温暖地や南アジアでは発生が限られる傾向。作付残渣やボランティア玉ねぎ（自生）から再発生しやすい。
• 防除には輪作、耕種的対策、芽出し時の土壌消毒や薬剤処理が推奨。薬剤抵抗性や成虫の高い移動性が問題となっています。[4][5][7]

3. クロシタアオヨトウ（Black Cutworm, Agrotis ipsilon）

生物学的特徴

• 学名：Agrotis ipsilon（鱗翅目：ヤガ科）
• 世界的な土壌性夜行性害虫で、さまざまな野菜作物を加害。成虫は茶褐色の中型蛾。
• 幼虫は土壌中で日中隠れ、夜間地際部を食害。主に雑草地や草地に由来し、耕地の雑草密度が高い場合や不耕起管理下で多発。[3][7][9]

被害症状と視覚的同定

• 幼苗や若株の地際部を噛み切り、突然消失したり枯死した苗が特徴的。葉はきれいに切断され、地際～地中部に半円状のかじり痕が残る。[4][9]
• 幼虫は灰黒色～黒褐色で、成長したものは頭幅太く2.5～3cmに達することも。[7][9]

地域・気候・栽培システムによる傾向

• 北米、ヨーロッパ、アジアなど世界的に断続的な発生。雑草が多い圃場や前年非作付地、被覆栽培下などで被害が甚大となる場合あり。[9]

4. ハモグリバエ類（Leafminers, Liriomyza属）

生物学的特徴

• 代表種：Liriomyza cerae他、数種（ハエ目：ハモグリバエ科）
• 玉ねぎ以外にも広範な野菜類を加害。小型の黒～黄褐色のハモグリバエ類が葉組織に卵を産み付け、ふ化幼虫が葉肉層内を食害して「潜孔（マイン）」を作る。
• 成虫は小型のハエ、透明～淡黄色。葉の表面に小さなピンホール状の産卵痕が見える場合も。[3][7]

被害症状と視覚的同定

• 葉表面に白色または銀白色の蛇行状トンネルが明瞭現れ、進行すると葉の生育が阻害、光合成低下。重度では葉枯れから球肥大阻害に至ることも。
• 幼虫は透明で細長い体型。被害のある葉は容易に同定可能。[7][10]

地域・気候・栽培システムによる傾向

• 世界的に分布するも、特にアジアおよびロシア、中東諸国などで大発生が知られる。温暖地や施設栽培、被覆栽培下で問題化しやすい。[3][7]

5. その他の害虫（アブラムシ類・甲虫類など）

概要

• アブラムシ類：玉ねぎ葉から吸汁。加害による生育遅延やちぢれ症状、またウイルス病媒介のリスクあり。
• 甲虫類：ヨーロッパ・中央アジアを中心に、Agriotes lineatus（コメツキムシ）、Ceuthorrhynchus jacovlevii（ゾウムシ科）などによる観察例あり。[3][5]
• 地域や年次によっては、これらが主要害虫となる場合もある。

世界的総括と発生要因

• 世界規模でみると「葉を吸汁する種類（約70%）」が大宗で、次いで「鱗茎食害型（約19%）」「根部食害型（約10%）」が続きます。[3]
• 作付時期や地域気象（特に温度・降水量）、圃場の管理（被覆、残渣管理、輪作、雑草防除）、品種特性などが害虫多発の主因となります。[4][6][8]
• 気候変動等による発生パターンの変化、農薬抵抗性、高度集約的な有機・慣行栽培システムでの発生動態の違いなども注目されています。[4][6][8][11]

被害対策と管理上の知見（概要）

• しきい値に則った適切なモニタリング（例：3頭/葉または10頭/株で処理基準）、輪作、圃場残渣・ボランティア株の除去、奔放的耕種、抵抗性品種（例：セミグロッシー系統）などIPM（総合的病害虫管理）が広く推奨されています。
• 特定の害虫（例：ネギアザミウマ）は薬剤抵抗性が課題となっており、有機資材や生物農薬の活用、圃場間隔・灌水・間作等の文化的管理手法の組み合わせが必須です。[4][6][8][11]
• 新たな抵抗性玉ねぎ品種（例：‘USDA-Maia’セミグロッシーハイブリッド等）の導入やバイオ農薬の開発も進められています。[8][11]

まとめ

世界の玉ねぎ栽培における主要害虫は、ネギアザミウマ、タマネギバエ類、クロシタアオヨトウ、ハモグリバエ類が最大の経済的脅威であり、各害虫は生物学的特徴や被害症状で識別可能です。その発生や被害の深刻度は、温度・降水・土壌条件、耕種体制や品種によって大きく左右され、気候変動や栽培システムの変化に応じて発生パターンも変容しています。IPM含めた統合的な対応が、世界的に求められています。

Sources

1. Succession of onion insects and pests complex on onion (Allium ...)
2. The Preference of Thrips tabaci for Allium cepa...
3. A Checklist of Insect Pests of Onion - ResearchGate
4. Integrated Pest and Disease Management (IPDM) Module for Major ...
5. Ecological Characteristics of Phytophagous Plants of the Onion ...
6. MAJOR PESTS :: ONION THRIPS
7. Pests of Onion | NC State Extension Publications
8. Major Onion Pests and Diseases and Sustainable ...
9. Onion Arthropod Pest Management | IPM World (UMN)
10. Onion: Pests - Agriculture - Vikaspedia
11. Managing the Most Significant Biotic Challenges for Organic Onion ...