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キャベツの各成長ステージにおけるNPK(窒素・リン・カリウム)吸収量(g/m²)の調査と推定法

概要

キャベツ(Brassica oleracea var. capitata)は、日本各地で広く栽培される主要な葉菜類作物であり、その肥料管理(特にNPK:窒素、リン、カリウム)は収量と品質の確保に直結します。本報告では、キャベツの各成長ステージ(発芽・苗立、栄養成長、結球、開花、成熟・収穫)ごとのNPK吸収量(g/m²)について、国内外の文献を用いて詳細に整理し、直接データが存在しない場合の推定方法も明示します。

1. キャベツの全体的なNPK吸収量(日本国内データ)

日本の農業試験場・自治体・肥料指導機関のエクステンション資料や学術文献によれば、キャベツの一般的な総吸収量(10aあたり)は以下の通りです:

  • 窒素(N):20~30 kg/10a(2.0~3.0 g/m²)
  • リン(P):5~7 kg/10a(0.5~0.7 g/m²)
  • カリウム(K):25~35 kg/10a(2.5~3.5 g/m²)

また、吸収が最も盛んになるのは「結球期開始付近」であることが一致して報告されています。施肥・吸収タイミングと成長ステージの関係が明確に指導されており、概ね「発芽・初期苗立期は少量、中期(栄養成長~結球開始)で急増、成熟・収穫期では鈍化、場合によっては葉から結球部への栄養移動(転流)」がみられます【1】【2】【3】【4】【5】【6】。

2. 各成長ステージにおける吸収パターンの整理

各ステージごとの吸収パターンは以下の通りです(日本―国際文献共通):

  • 発芽・苗立(Germination/Seedling)
    NPK吸収量はごく僅か。全体の2~5%程度。
  • 栄養成長(Vegetative Growth/ロゼット期)
    吸収が増加し、特にNとKの要求が高まる。全体の15~25%程度。
  • 結球開始前後(Heading Initiation/結球開始)
    吸収速度が最大化。全体吸収量の50~60%がこの時期に一気に行われる。
  • 結球期(Heading/Head Development)
    吸収速度は高いが次第にピークアウト。さらにリンやカリウムの吸収がやや続く。
  • 開花・成熟・収穫期(Flowering/Maturity/Harvest)
    新たな吸収は少なく、むしろ古い葉からの転流が生じる。全体の数%程度。

この吸収カーブは日本国内の報告と、米国カリフォルニア州での主要ピアレビュー文献【7】や国際エクステンション資料【8】で完全に符合します。

3. 日本特有のデータの有無とその限界

日本国内文献において、明確なg/m²単位での成長ステージ別NPK吸収量を直接示した一次データは存在しません。主に「総吸収量」(kg/10aやkg/ha)と「吸収ピーク時期」の記述がなされています。したがって、国際的な成分吸収カーブ(例:カリフォルニア州研究)をもとに、日本の総吸収量値を分配する推定法が妥当であることが示唆されます【1~6】【7】【8】。

4. 推定方法:各成長ステージごとのNPK吸収量の算出手法

4.1 推定手順の論拠

  • 日本の総吸収量(例:N=3.0g/m²、P=0.7g/m²、K=3.0g/m²など)を基礎値とする。
  • カリフォルニア州のピアレビュード研究【7】および国際吸収パターン(エクステンション資料等)で示される各ステージの吸収率(総吸収量に対する割合)を適用する。
  • 各ステージへの分配割合は以下のように設定【7】【8】:
ステージ吸収割合(%)吸収量(g/m², N例)
発芽・苗立3%0.09
栄養成長20%0.60
結球開始(Heading Initiation)55%1.65
結球~開花17%0.51
成熟・収穫5%0.15
合計100%3.0

同様の割合でP、Kにも分配可能。

4.2 上記計算例(N・P・K全成分)

たとえば、【2】【3】【4】を参考に総吸収量を

  • N:3.0g/m²
  • P:0.7g/m²
  • K:3.0g/m²

とした場合、推定される各ステージごとの吸収量(g/m²)は以下の通りとなります:

ステージN吸収量P吸収量K吸収量
発芽・苗立0.090.0210.09
栄養成長0.600.140.60
結球開始(Heading Initiation)1.650.3851.65
結球~開花0.510.1190.51
成熟・収穫0.150.0350.15
合計3.00.73.0

※実際の総吸収量は「地域・品種・施肥法・作型」により±20%前後の変動あり。【2】【3】【4】

4.3 推定法の妥当性

上記推定は、以下の多数のエビデンスにより裏付けされます。

  • 日本農業現場では「結球開始直前~結球期が最大吸収時期」と一貫して指導される【1】【2】【3】【4】【6】。
  • 米国カリフォルニアの詳細追跡試験【7】やアリゾナ州等のエクステンション【8】が吸収カーブを数値的に示し、グローバルな生理学的共通性を担保している。
  • ブロッコリー等近縁アブラナ科野菜の吸収曲線も同じ傾向を示す。【6】【7】

5. 実際に施肥設計や栽培管理に与える意味

  • 早期生育の促進が重要:苗立ち・若苗期は多く固形肥料(元肥)を用い、微量吸収期でも成長阻害を防ぐ。
  • 中~後期での栄養供給維持:結球開始前~結球期に追肥をタイミングよく与える。
  • 過剰施肥の回避:結球以降や収穫段階での余分な肥料投入は病害・裂球などを誘発するため控える。

6. 今後の課題と応用

国内での品種別・作型別の成長ステージ毎の直接測定データの蓄積は今後も重要です。推定法は実用的でありつつも、現地環境や栽培体系への個別対応のための再検証が望まれます。


まとめ

  • 日本国内において、キャベツの各成長ステージ別のNPK吸収量について、直接的なg/m²ベースの一次データは存在しないが、総吸収量データおよび国際吸収曲線を併用する推定法が標準的
  • 最大吸収期は結球開始前後(Heading Initiation) であり、施肥設計や現場管理上、タイミングとバランスが重要。
  • 推定値は、N(3.0g/m²)・P(0.7g/m²)・K(3.0g/m²)などの総吸収量に対して、各成分の60%前後が結球開始前後、残りは初期と後期に分配するのが妥当。

Sources

[1] 砂壌質露地畑でのキャベツの施肥量削減の可能性 - 愛知県: https://www.pref.aichi.jp/uploaded/attachment/34473.pdf
[2] 16 キャベツ 地域慣行基準 【化学肥料】: https://www.pref.nagano.lg.jp/nogi/documents/16kyabetsu.pdf
[3] 【キャベツの肥料設計】特性を生かした施肥設計と、品質・収量を ...: https://minorasu.basf.co.jp/80311
[4] 「肥料施用学」 BSI 生物科学研究所 キャベツ: http://bsikagaku.jp/f-fertilization/cabbage.pdf
[5] メロン・キャベツにおける牛ふん堆肥中のク溶性リン酸 ... - 熊本県: https://www.pref.kumamoto.jp/uploaded/attachment/5064.pdf
[6] 5 野菜の養分吸収量: https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/hozen_type/h_sehi_kizyun/pdf/siryo5.pdf
[7] Cabbage yield and nutrient uptake - California Agriculture: https://californiaagriculture.org/api/v1/articles/110854-cabbage-yield-and-nutrient-uptake.pdf
[8] Cabbage: https://cales.arizona.edu/crop/soils/azncabbage.pdf