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世界のピーマン（Capsicum annuum、ピーマン）の主な害虫と被害症状 総覧
概要
ピーマン（Capsicum annuum）は世界中で広く栽培される野菜であり、その生産には多種多様な害虫による被害が常に大きな脅威となっています。本総覧では、地域や栽培環境（露地・施設栽培）を問わず、世界的に主要とされるピーマンの代表的な害虫について、分類、生活史、生態、被害症状などを詳細に解説します。 さらに、日本語を含む国内外の公式文献を参照し、最新の知見や実例に基づいて解説します。
1. アザミウマ類（Thrips）
【主な種・分類】
- Western flower thrip（アメリカネギアザミウマ）：Frankliniella occidentalis
- ミナミキイロアザミウマ：Thrips palmi （いずれも Thysanoptera（アザミウマ目）：Thripidae（アザミウマ科））[1][2][3]
【生態・発生特性】
- 幼虫・成虫ともに葉や花、果実表面の細胞内容物を吸汁する。
- 小型で、主に新葉・蕾・花や果実表面に集まり被害を与える。
- 高温多湿を好み、施設だけでなく露地でも発生。農薬抵抗性の進行が世界的問題[1][2][4]。
【被害症状】
- 吸汁痕として葉や果実表面に銀白色や褐色の斑点、筋状の傷が発生。
- 被害果は表面がざらつき、商品価値が低下。
- 花や蕾での被害は果実形状の奇形・着果不良を招く。
- 植物ウイルス（例：トマト黄化えそ病／Tomato spotted wilt virus）の媒介者としても世界的に重要[1][2][3][5]。
2. アブラムシ類（Aphids）
【主な種・分類】
- モモアカアブラムシ（Myzus persicae）
- ワタアブラムシ（Aphis gossypii） （Hemiptera（カメムシ目）：Aphididae（アブラムシ科））[1][2][3]
【生態・発生特性】
- 植物体の新芽・葉裏・花蕾・茎頂部に群生して汁を吸う。
- 驚異的な繁殖力で病害発生時は大発生しやすい。
- 羽あり型で菌やウイルスを広範囲に運ぶ。施設栽培で特に優勢[2][3][4]。
【被害症状】
- 葉の縁巻き・縮れ・新芽の萎縮・生育不良。
- 多量の「甘露」排泄物によるすす病の発生（葉果面が黒ずむ）。
- 主なウイルス（モザイク病等）を媒介し、葉・果実のモザイク、萎縮、ねじれや変形を引き起こす[1][2][5]。
3. コナジラミ類（Whiteflies）
【主な種・分類】
- タバココナジラミ（Bemisia tabaci）
- シルバーリーフコナジラミ（Bemisia argentifolii）
- オオタバココナジラミ（Trialeurodes vaporariorum） （Hemiptera（カメムシ目）：Aleyrodidae（コナジラミ科））[1][2][3]
【生態・発生特性】
- 成虫は小型の白色虫、主に葉裏に集まる。
- 幼虫（固定型）・成虫ともに汁を吸うが、特に高温・施設栽培で繁殖力が著しい。
- 世界的に最重要害虫の1つ、ウイルス（Pepper yellow leaf curl virus等）の媒介者[2][3][4]。
【被害症状】
- 葉の黄化・巻き・生育不良、果実の着色不良。
- 甘露によるすす病発生（葉・果実の黒ずみ）。
- 黄化・縮葉等のウイルス症状、果実の外観品質低下[1][2][6]。
4. 果実蛾・ヨトウムシ類（Fruit borers, Armyworms）
【主な種・分類】
- タバコガ（Helicoverpa armigera）
- アメリカタバコガ（Helicoverpa zea）
- シロイチモジヨトウ（Spodoptera litura） （Lepidoptera（チョウ目）：Noctuidae（ヤガ科））[1][2][3]
【生態・発生特性】
- 成虫は蛾。幼虫が葉・蕾・果実内部への食入により直接被害。
- 卵は葉・果柄・若い果実等に産み付けられ、孵化幼虫が果実内に穿孔[2][3]。
- 季節性強く、温暖期に大発生。施設内でも緑化帯や隣作からの飛来あり。
【被害症状】
- 果実表面に穿孔や食い跡、内部食害による果肉の腐敗や落果。糞やフラスも付着。
- 被害部分から菌類・細菌等の二次感染が発生。
- 葉や蕾への食害では不整形な穴、骨葉化、甚だしい場合には生育不良[1][2]。
5. ハダニ類（Spider mites）
【主な種・分類】
- ミカンハダニ（Tetranychus urticae） （Trombidiformes（ダニ目）：Tetranychidae（ハダニ科））[1][2][3]
【生態・発生特性】
- 葉裏に多数発生。卵〜成虫すべてが吸汁加害。乾燥・高温時に急増しやすく施設栽培で優勢。
- 蜘蛛の巣状の糸を葉に張る[2][3]。
【被害症状】
- 葉面の白斑、黄化、褐変、被害進行で落葉。
- 光合成能力低下で生育停止、果実着色・肥大不良。
- 密度増加でクモの巣状糸が葉全体を覆うことも[1][2]。
6. ピーマン花実ゾウムシ（Pepper weevil）
【主な種・分類】
- ピーマン花実ゾウムシ（Anthonomus eugenii） （Coleoptera（コウチュウ目）：Curculionidae（ゾウムシ科））[7][8]
【生態・発生特性】
- 主に温暖地域（北米・中米）や温室で繁殖。
- 成虫が花・幼果に穿孔産卵。内部幼虫が組織を食害。
【被害症状】
- 花や若い果実の内部に食害痕、結果として落果や変形果。
- 内部に穿孔跡や腐敗部が認められ、流通障害となる[7][8]。
7. カメムシ・その他の発生例
【代表例】
- カメムシ類（Stink bugs）：果実に口針で穿刺被害、表皮にくぼみ・変色・奇形。
- ハモグリバエ類（Leafminers、Liriomyza spp.等）：葉内に蛇行状の白いトンネル。
- その他、ネキリムシ類、テントウムシダマシ、コガネムシ類、フリーミドリミツバチ、広食性ヨトウムシ類も重要発生例[1][2][5]。
8. 害虫ごとの被害診断ポイント
- アザミウマ類：新芽・花・果面の銀白色斑、微小虫体の集団確認。
- アブラムシ類：新芽や蕾の巻き葉・縮れ、群生・甘露・すす病。
- コナジラミ類：葉裏の小型白色虫、高密度時の黄化・すす病。
- ヨトウムシ・果実蛾類：果実や蕾の穿孔とフラス、果肉の崩壊や落果。
- ハダニ類：葉の黄化やクモの巣状物質。
- ゾウムシ類：未熟果・花の脱落や内部の食害跡。
- カメムシ類ほか：果実表面のくぼみや日焼け状変色、葉表の虫食い状巣穴等[1][2][4][5][7]。
9. 温室・露地での発生傾向・その他注意点
- 温室（施設栽培）はアザミウマ、アブラムシ、コナジラミ、ハダニなどの小型多発型害虫が優占。
- 露地では果実蛾・ヨトウムシ・カメムシ・ハモグリバエ類のリスクが高い。
- 特にアザミウマ・アブラムシによるウイルス病伝搬には世界的に最大限の警戒が必要とされる[1][2][3][4][5]。
10. ピーマン害虫の総合的管理（参考）
- 定期的な目視調査、粘着トラップ活用による早期発見。
- 防虫ネット・侵入阻止装置等の物理防除。
- 天敵（寄生蜂、捕食性昆虫・ダニ等）の積極的利用。
- 薬剤ローテーションと農薬抵抗性管理。
- 雑草・被害残渣の徹底した除去と衛生管理。
- IPM（統合的害虫管理）の推進が国際的にも標準[1][2][3][6]。
Sources
[1] JA全農. ピーマンの病害虫を防除しましょう. https://www.zennoh.or.jp/ib/contents/make/einou/2744.pdf
[2] 日産化学 病害虫防除マニュアル ピーマン編. https://www.nippon-soda.co.jp/nougyo/wp-content/uploads/2024/09/病害虫防除マニュアル_ピーマン編_2024.930.pdf
[3] IntechOpen: Major Pests and Pest Management Strategies in the Sweet Pepper. https://www.intechopen.com/chapters/82890
[4] JA協友アグリ株式会社. ピーマン - 害虫図鑑. https://www.kyoyu-agri.co.jp/GAICHU-ZUKAN/crops/greenpepper.html
[5] ピーマン農家が教えます！病気と害虫について. https://pi-mannblog.com/custom25.html
[6] Yamamu Farm. ピーマン・トウガラシ類の病気と害虫｜症状の特徴と防除方法. https://ymmfarm.com/cultivation/pest/by-veg/green-pepper-pests/
[7] The Spruce: 10 Common Pepper Plant Pests and How to Get Rid of Them. https://www.thespruce.com/bugs-on-peppers-8704791
[8] Phytopath.ca: Diseases and Pests of Greenhouse Pepper. https://phytopath.ca/wp-content/uploads/2025/03/DPVCC-Chapter-24-greenhouse-pepper.pdf